「お前が仕事遅いから俺の評価が落ちて給料が減る!」
もうひとつの心配は、部署の効率化を推進する管理職のマネジメント力である。定時退社やノー残業デーに取り組んでいる企業も多いが、現時点ですでに管理職の力量不足による怨嗟(えんさ)の声も上がっている。
あるサービス業の40代の女性社員はこう語る。
「残業を減らせ、早く帰れと口で言うだけで、業務改善の取り組みをしない」
50代の金融業の女性社員も次のように話してくれた。
「ただ早く帰れと言われるばかりで、無駄な報告や申請書類、組織改革がない。スカートの裾を踏んだままで先に進めと言われているような感じだ」
「定時退社を! 残業を減らそう! 生産性向上を!」。そんなスローガンの文言そのものは悪くない。だが、そう呼びかける管理職や上司はたいてい口だけで、増員をするなど具体的な対策を打つことはまれだ。
▼仕事が遅い社員が「パワハラ地獄」に陥る可能性
さらに言えば、業務の効率化を進めるのはよいとしても「仕事を効率化しすぎて職場内のコミュニケーションが極端に減ってしまい、逆にモチベーションが下がってしまった」という声もしばしば聞く。
無策のまま時間内に仕事を終わらせるために部下を締め付けると、仕事の楽しさややる気をそいでしまう結果になりかねない。
よくあるパターンは、時間内に終えられない社員の仕事を取り上げて、仕事が速い社員に仕事を振り分けるか、管理職自らできない社員の仕事を肩代わりしてやることだ。
こうなると仕事のシワ寄せを受ける社員は、仕事が遅い社員に対して恨みを抱くかもしれない。そもそも「部下に仕事を与えない」行為はパワハラとされている。その上、上司が遅い社員に対して怒り散らすことになれば、凄惨な「パワハラ地獄」に発展することになるだろう。
上司はこう言うかもしれない。
「お前が仕事遅くて残業ばかりしていると、(管理職である)俺の評価が落ちて、給料が減るんだよ!」
仕事の遅い社員は職場にいづらくなり、仕事に対する気力も完全に失ってしまうのではないか。
こんなやり方では、短期的に残業時間の削減が進んだとしても中・長期的に職場環境が悪化し、生産性は低下していくだろう。本当の意味で「働き方改革」を進めるのであれば、現場を締め付けるだけでなく、マネジメントの仕組みそのものを考え直す必要がある。そうしなければ、長期的な生産性の向上はおぼつかないだろう。