残業は「組織や個人」のレベルを超えている

残業はなぜなくならないのか。「だらだら仕事しているからだ」「長い会議が多すぎるからだ」、そんな意見をしばしば耳にするが本当にそれらが主犯なのだろうか。本書は豊富なデータや著者自身の経験に基づく具体的な事例を踏まえて、残業がなくならない本当の原因に迫り、真の働き方改革につながる方策を提言した斬新かつ意欲的な仕事論・組織論だ。

著者は残業がなくならないのは日本企業にとってそれが合理的だからだと言う。

もちろん残業を肯定しているわけではない。「残業は悪だ」が、「残業は嫌だという感情を手放して残業の持つ合理性と向き合わなくては、真に有効な対策にはなりえない」と言うのだ。

どう合理的なのか。本書では企業経営者や社員へのアンケートを分析し、「残業しなければならないように、労働社会が設計されている」実相を解き明かす。

具体的には厳しい納期での納入を迫られても、あるいは突然要求を変えられても、従わざるをえない顧客企業との力関係や、社員を増やすよりも今いる社員に残業してもらい、業務の繁閑に柔軟に対応するとともに総人件費を抑える経営のあり方などだ。

こうした冷静な分析を踏まえて、著者は残業がなくならないのは社員の働き方や能力にすべての問題があるからではないと言う。残業の発生は「組織や個人で努力できるレベルを超えている」構造的問題なのだという指摘にはなるほどとうならされる。

「予約の取れない寿司屋モデル」

ではどうすれば日本の企業社会のあり方に深く根差した残業をなくせるのか。

残業ゼロに向けた著者の提言は独創的で説得力に富み、まさに本書の読みどころの1つなので、ここではキーワードだけ紹介したい。

まずは「トヨタ生産方式が社会を変える」。

著者は「かんばん方式」に代表されるトヨタ自動車の生産管理システムに、非製造業でも取り入れられるヒントとノウハウがあると言う。そのこころは社員のスキルや業務量などの「見える化」だ。

続いて「予約の取れない寿司屋モデル」。

受け入れる客数に上限を設け、味やサービスを高い水準で維持しようと心掛ける寿司屋のように、取引先を絞ったり取引先の要求にどこまで応えたりするかを再定義したらどうかと著者は提案する。実際「仕事と家庭の両立」を理解してくれる企業とだけ取引し成長するデザイン会社があると言う。

「働き方評論家」あるいは大学教員として多方面で活躍する著者は会社員時代、月80時間の残業を何年も経験した一方、管理部門では逆に残業時間を減らさなければならない苦痛も味わったという。本書はそうした濃密な経験の結晶だとも言えるだろう。

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