先進国でも新興国でも売れる仕掛け

世界の自動車メーカーがうらやむインドでの成功だが、スズキ自身は「インド一本足打法ではダメなんです」という。過去2世代のスイフトというクルマは、欧州でも日本でも売れてきたし、今後も売れてくれなくては困る。新興国対策が最優先だとしても、先進国でもアピールできる要素はぜひとも必要だ。そのために選ばれたキーワードは「“デザイン”と“走り”を革新させ、お客さまの期待を超える」というものだ。何よりスイフトは軽自動車のワゴンRと共にスズキを支える屋台骨であり、過去2世代のモデルでの累計販売台数が530万台に上る大ヒットモデルである。その名跡はしっかり継いでいかなくてはならない。

デザインにおける「スイフトらしさ」は、3つの要素でできている。まずは力強いショルダーラインだ。次がフロントウインドーがそのまま左右に回り込むラップアラウンドウインドー。フロントウインドー左右の柱(Aピラー)をしっかり立てること。昨今のクルマはこのAピラーが大きく後傾しており、それが乗員への圧迫感を生んでいる。クリーンで健康的な客室のためにはこのピラー角は譲れない。最後に縦長基調のランプ類デザインがある。スズキはこの3つのデザイン要素を引き継げば、スイフトらしいスタイルが実現できると考えた。しかし同時に新しさも必要だ。それを表すキーワードが「動きのある力強いデザイン」。新型スイフトは車高を20ミリ下げ、Aピラーの位置を後方へ移動すると共に、スイフトの記号のひとつであるショルダーラインの上面を強調して、動きのある造形を作り出している。

新型スイフトの欧州仕様車
新型スイフトのインパネ(HYBRID RS)

日本向けの仕掛け、マイルドハイブリッド

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マイルドハイブリッドは、発電機をモーターとして使い、小型のリチウムイオンバッテリーにエネルギーを貯める仕組みだ。

走りはどうしたのか? スズキは先進国専用にマイルドハイブリッドとターボという2つのユニットを加えた。走行速度が遅く、頻繁なストップ&ゴーを強いられる日本では、エネルギー回生のできるマイルドハイブリッドは利得が大きい。しかもトヨタ式の大がかりなものではなく、元々必要な発電機をモーターとして使い、小型のリチウムイオンバッテリーにエネルギーを貯める方式とした。これなら安価でありながら、走りの質を高めることができる(参考:http://www.suzuki.co.jp/car/technology/mildhybrid/)。モーターはエンジンに比べ、低回転でのトルクに優れ、発進がスムーズで力強くなる。実際に運転してみると、このマイルドハイブリッドの出来は非常に優れている。

欧州の場合、高速巡航による長距離移動のニーズが高く、こうした運転パターンだとマイルドハイブリッドが得意とするエネルギー回生の出番が少ない。そこで欧州向けには小排気量ターボユニットを用意した。高速巡航を中心に考えれば、小さいエンジンに過給してトルクを稼ぎ、ハイギヤード※なトランスミッションを用いて、エンジンを低回転で使って燃費を稼いだほうがメリットが多い。このユニットの出来はマイルドハイブリッドの完成度には及ばないが、欧州のニーズに対応したシステムとして理解できるものである。

※ハイギヤード……トランスミッションなどでギヤの変速比が小さい仕様のこと。加速よりも、高速巡航性に優れたギヤ比。

新型スイフトの滑り出しを見ると、国内で1月に発売され、3月までの販売台数1万3500台。つまり月販換算4000台強で、計画の3000台/月を上回る成果だ。インドと欧州でもそろそろデリバリーが始まる。インド向けにはスイフトにリヤトランクを備えたセダンモデルの「ディザイア」も発表された。

5月16日発売、スイフトをベースにしたインド向けセダン「ディザイア」

こうして眺めてみると、スズキは自社の置かれた環境を緻密に分析し、最小の手数でしっかり布石を打っていることがわかる。スイフトはスズキのグローバルカーとして、非常に戦略的な製品になっているのである。

■次のページではスズキ「新型スイフト」の企画書を掲載します。