インドNo.1の自動車メーカー、スズキ

「スズキって軽自動車の会社でしょ?」と思っている人も多いだろう。しかしながら、実は世界の自動車メーカーランキング第10位。年産300万台の大規模メーカーである。そう言われてもピンと来ない人のために他社の例を挙げておく。マツダが155万台、スバルが107万台、ベンツが187万台、BMWはミニなどを含めたグループ全体で225万台。台数ベースで見れば、少なくともスズキはこれらの会社より大きいのだ。

しかもその内訳が面白い。スズキの2016年のアニュアルレポートで公表された同年の販売内訳を見ると、以下のようになっている。

海外販売が約8割。そのなかでも成長著しいアジア市場の比率が高い。ここにしっかり食い込んでいる日本のメーカーは、人口12億人のインドではスズキ、人口8.5億人のASEANではダイハツと日産/三菱ということになる。しかもスズキはインドでの乗用車シェア率47%と、とんでもない数字を叩き出している。小堀氏によれば、「インドに行くと、ウチのクルマが日本でのトヨタくらい走っています」という状況である。

かつて自動車が事実上の禁輸品目だった時代、インド国内で販売されていた現代的なクルマはスズキだけだったので、ピーク時には80%とまさに寡占状態にあった。1990年以降、インド経済が自由化の歩みを進めるにつれて、その中国と並ぶ巨大な市場規模に惹かれて世界中の自動車メーカーがこぞって進出し、競争は激化の一途をたどっている。その中で今もシェア率47%を保っているのだ。

自動車産業の次の注目がインド市場

2010年代前半、自動車メーカーは中国マーケットの争奪戦を繰り広げていた。2000年までは自動車メーカーが全く重視していなかった中国市場は、2016年にはなんと2500万台マーケットへと成長し、今や世界の自動車販売台数の4分の1を占める巨大なマーケットになっている。その間にGDP(国内総生産)は約10兆人民元から約75兆人民元に増えた。そして次の20年、中国に続いて躍進するのはインドであるというのが大方の見方である。現在のインドマーケットはまだ300万台にすぎないが、すでに急速な拡大を見せている。中国の実績を物差しにするなら、そこには2000万台級、つまりトヨタとフォルクスワーゲンの総生産台数を足した位の巨大なマーケットが潜在していることになる。このマーケットの争奪戦は今後熾烈を極めることになるだろう。

しかし、新興国マーケットには新興国マーケットなりの難しさがある。先進国とは戦い方を変えなくてはならない。先進国の様に最新システムを山盛りに搭載したクルマを押し込もうとしても、新興国ではメンテナンスができない。だからと言って旧型システムでいいわけがない。中国の大気汚染とその後の販売制限を見ればわかる通り、最新の環境性能を備えなければ、せっかくの潜在需要が販売規制によって減衰してしまう。

整理するとこういうことだ。スズキは今後の主戦場になるインドマーケットで、世界中の自動車メーカーがうらやむような先行者利益を確保しており、その潜在需要を損なわずに掘り起こすために高い環境性能を求められ、しかもその環境性能をインドでメンテナンス可能なメカニズムで達成しなくてはならない。しかも国民ひとり当たりのGDP(2016年)が日本の23分の1のインドで、高価格なクルマが普及するとは考えづらい。環境性能が高く、構造がシンプルで、しかも安くなければならない。相当な無理難題である。

例えばトヨタ・プリウスの様なストロングハイブリッドは環境性能こそ高いがメンテナンスの面でインドには向かない。かと言って電気自動車となれば、これまたインフラ整備が必要で、そもそも電気が引かれていない地域すらあるインドではあまりにも無理が多すぎる。

現実的に今できる手段は、既存の内燃機関の徹底的な低燃費化しかない。スズキはエンジンを徹底的に改良して低コストで高効率化するだけでなく、車体を軽量化することによって、この複雑なパズルを一気に解こうとした。120kgも軽量化すれば素材の使用量が減って原価低減が進み、燃費も動力性能も向上する。課題の環境性能にもプラスになる。