欲求は生理的なものから自己実現へ
たとえば心理学者アブラハム・マズローの有名な欲求階層説では、人間の欲求を5階層に分けている。その流れでは、生理的な欲求が満たされると、さらに高度なレベルの欲求を満たそうとし、最後には自己実現を果たしていく。生理レベルの底辺から徐々にピラミッド型の欲求を満たそうとするのが人というわけだ。
人の欲求を5階層に分けた欲求階層は、ピラミッド型の底辺から頂点に向けて次のようになる。
・生理的欲求(食事・睡眠・排泄など)
・安全の欲求(経済の安定、安全性、健康状態の維持など)
・社会的所属と愛の欲求(社会に必要とされる、社会に役割があるなど)
・承認(尊重)の欲求(集団から価値を認められる、尊重されるなど)
・自己実現の欲求 (自分の能力と可能性を発揮し、具現化するなど)
欲求の5階層をよく見てみると、たとえばビジネスでは生理的な欲求が満たされる以上に、より高度な“自己実現”に向かう方が満たされ、やる気が出るだろうことがうかがえる。「とにかく食べられればいい」状態より、「自分の可能性を存分に発揮できる」方が、欲求はより満たされるだろう。
マズローはこれを、個人レベルから集団レベルへの応用を試みようとしたが志半ばで終わった。だが最近では、こうした人の活動を経済指標に組み込むことで、より経済活動の実態をとらえられるという考え方になってきている。
政治でもビジネスでも、日常的につい目に見える数字に気を取られがちなものだ。とはいえ、たとえばビジネスなら知的財産や会社の文化やブランドへの忠誠心といった、目に見えないものが大切だと理解している人は多い。ところが、それを「測る」「数値化する」となると、明確な測定の基準がないために、私たちはまた経済的利益や数字ばかりを追いがちになる。
こうした目に見えないものを、分析をもとに導きだした指標の一つが、ご存じブータンのGNH(Gross National Happiness 国民総幸福量)だ。それは、どのような方法なのだろうか。