日本の認知症患者数は約443万人(2022年推計)。一方、人口8482万人のドイツでは約200万人が認知症だという。ドイツ出身のサンドラ・ヘフェリンさんは「ドイツでも、認知症になってから高齢者施設に入る人が多く、そこでは日本にはない、面白い取り組みもされている」という――。

※本稿はサンドラ・ヘフェリン『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)の一部を再編集したものです。

ドイツの介護問題も、日本同様に「お金次第」

ケア労働についてドイツと日本を比較すれば、「社会や家族からのプレッシャー」については、ドイツは日本ほど強くはありません。特に親の介護に関しては、比較的ドライな考え方をする人が目立ちます。

30代のドイツ人女性は、「『自分では介護できない』と割り切るドイツ人は多いと思う。体力的にも時間的にも不可能と考え、その考えを親も子もシェアしているように感じる」と語ります。親を介護施設に入れるのではなく、介護士に定期的に自宅に来てもらうケースも少なくありません。

日本では「福祉国家であるドイツでは介護に関しても国のケアが行き届いている」と思われがちですが、そうとは言い切れません。ハナから夢のない話で恐縮ですが、お金次第です。高額な保険にしっかり入っていたり、裕福な家庭であったりすれば介護生活も幾分楽になりますが、ドイツは日本と同様に「中間層」が多い国ですから、事態は深刻です。

ドイツの高齢者施設に設置される「バスの来ないバス停」

「どんな介護を望んでいるのか」「老後は施設か自宅か」を、事前に家族で話し合っていたとしても、いざとなると費用や施設の空き状況、子どもの生活その他があり、予定通りにはいきません。また、本人が「介護施設は絶対に嫌!」と言っても、子どもがケアを担えない場合、施設に入れるしかないケースが増えています。

さらに認知症になってしまうと、「本人の希望」を確認することすら難しくなってしまいます。現実としてかなりの数の人が「認知機能が衰えた状態で、介護施設に入る」ことになります。そこで、ドイツの「介護付き高齢者施設の面白い取り組み」についてご紹介します。

認知症の人は「今この瞬間」のことがわからなくなる一方で、何十年も前の記憶が鮮明なこともあります。「今から家に帰る」と言っては、子ども時代や若い時に住んでいた場所に帰ろうとするのも万国共通です。

介護付き施設に入っている認知症の人たちもまた、「今から帰る」と出て行こうとするので、彼らを毎回追いかけるのでは職員が疲弊してしまいます。これはドイツアルツハイマー協会のシルビア・ケルン(Sylvia Kern)氏など、多くの専門家が認めるところです。

「どこに帰ろうとしているのですか? 今のあなたの住まいはここです!」

怒鳴りつけたり説得を試みたりするとトラブルになることが多く、職員と入所者の関係が悪くなるだけです。そんななか、ドイツの介護施設などの前に次々と作られているのが「バス停留所」です。その名もずばり「認知症の人のためのバス停留所」。

オーストリアとドイツのバス停の標識
写真=iStock.com/BalkansCat
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