そもそも離脱交渉のテーブルにつくことさえできないかもしれない。イギリスは未払いのEU分担金が累積で7兆円超ある。EUはこの支払いをイギリスに請求して、納めない限り離脱交渉はしないと言い出した。イギリスの財政状況でおいそれと7兆円は支払えない。税金で賄うとなれば世論の反発は必至で政権が持たない。「分割払いにしてくれ」とイギリスが泣きついても、EU側が受け入れるかどうか。そうこうしている間に離脱通告後2年のタイムリミットは刻々迫ってくる。イギリスが「交渉期間の延長」を求めても、リスボン条約50条の規定で加盟国すべての同意が必要だ。1国でも同意しなければ、2年後には無条件でEUから切り離される。特に国内にバスクやカタロニアなどの独立問題を抱え、かつ英領ジブラルタルの取り扱いに苦労しているスペインの同意が鍵となるだろう。従って最後の半年ぐらい、イギリスは地獄になる。企業やプロフェッショナルの優秀な人材の脱出組がわんさか出てくるからだ。イギリスに進出している金融機関やメーカーは、イギリスを拠点にしてEU各国で商売をしている。日本企業では日産あたりが一番大きいが、サンダーランドの工場でつくった自動車はイギリスで売るだけではなく、主にEUに輸出しているのだ。
イギリスは「EUとFTA (自由貿易協定)を結ぶから、離脱しても人やモノの移動は従来と変わらない」とアナウンスしているが、そんな「いいとこ取り」にEUが耳を貸すはずがない。FTAが締結できずに時間切れになれば、EUに輸出する自動車には10%の関税が発生する。イギリスに拠点を置く企業にとっては死活問題で、いよいよとなればイギリスからの脱出ラッシュが起こりかねない。このような最悪のシナリオがだんだん顕在化してきて、ブレグジットを選択した世論の風向きが変わってきている。
EUからの補助金が途絶えるのも離脱のデメリットの一つだ。EU加盟国は応分のEU分担金を拠出しなければならないが、一方で貧しい地域や競争力の乏しい業界はEUから補助金が下りてくる。たとえばイギリスの畜産業は年間2500億円の補助金をもらっているが、ブレグジット後にこれをイギリス政府が肩代わりするとは言っていない。
またイギリスの大学、研究開発機関は高度な研究が得意でEUから助成金が分配されているが、これもゼロになる。イギリスにはヨーロッパ大陸から優秀な研究者が集まってくるが、ブレグジット後は資金難から人材確保、研究レベルの維持ができなくなる懸念がある。逆にEU各国の研究開発機関や多国籍企業などプロフェッショナルな現場で優秀なイギリス人が数多く働いているが、ブレグジットによって彼らの滞在の自由もなくなるのだ。