限定正社員は日本で定着するか
例年行われる大学生の就職希望調査でも、たいてい発表されるのは人気職種ではなく人気企業のランキングです。もちろん新卒社員だけが非限定社員というわけではありませんが、中途採用者に関しては、すくなくとも募集時には一定の条件が提示されます。転職情報サイトでは、たいてい「職種」や「勤務地」で求人を検索するしくみになっています。
次に、給与水準について見てみましょう。
先ほどの厚生労働省の調査では、限定正社員の賃金水準は、非限定の正社員と比較して8~9割程度に設定している企業が多くなっています。この調査の面白いところは、企業側にだけでなく社員側にもアンケートを行っているところです。限定正社員に対して、許容できる賃金水準を聞いたところ、「非限定の正社員と同様の水準」という回答が最も多かったのです。要するに、転勤や職種転換の有無にかかわらず「同じ仕事をしているのだから、同じ給与を支給してもらいたい」という考え方です。
これは、どちらの立場に立つかによって、見解が分かれるところです。
もし、全国転勤可能社員と勤務地限定社員の待遇差が全くなければ、おそらく多くの人が後者を選ぶでしょう。すると、会社が組織を編成する際に、足かせが多すぎて、柔軟な意思決定ができなくなる恐れがあります。
日本の雇用慣習では、人に仕事が張りつくのに対して、欧米諸国は仕事に人が張りつくのが一般的です。たとえば、日本企業では、ある社員が技術部から人事部に異動になっても、基本的に給与額は変わりません。一方、欧米の企業では、このような職種を超えた異動が行われること自体が稀でしょうし、職務が変われば給与額も増減する方が自然です。これが、職務給という考え方です。通常、働く場所もあらかじめ決められています。
どちらの雇用スタイルが優れているという話ではありませんが、時代と共に、企業と社員の関係も変化してきました。長時間労働の是正や多様な働き方の拡大など、非限定正社員という働き方にも見直しの気運が高まっています。
いずれ、限定社員こそ働き方のスタンダード、という時代が来るかもしれません。