フィリピン人スタッフは全員正社員で雇用

【田原】考え方はわかります。具体的にはどうしたんですか。

【藤岡】先生を正社員で雇って、国際的な英語教師のライセンスであるTESOLを取得させました。私は教師も職人だと考えています。職人はマニュアルで育ちません。同じことを長期的に視点でやり続けることで腕が磨かれていきます。英語教師も、正社員にして安定的な雇用にすることで教え方がうまくなっていきます。いま私たちの学校には900人の先生がいますが、全員、正社員。いまセブには約300の英語学校がありますが、全員が正社員なのは私たちだけです。

【田原】正社員ですか。先生の月収はどれぐらいですか。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【藤岡】最低賃金は8000ペソですが、われわれは1万3000ペソ。日本円でいうと約3万円で、セブの学校の中でももっとも高い水準です。優秀な先生はたくさんもらえる仕組みになっていて、人気のある人はフィリピンで一番稼いでいると思います。

【田原】高給だと、たくさん応募がありそうですね。

【藤岡】先生の採用は200~300倍です。逆に、辞める人はほとんどいません。プロではない講師を使っている学校は、4000人の登録があっても、1年でほぼみんな入れ替わります。私たちは900人いて、月に10人も辞めない。辞めるのも、女性の先生が生活の環境が変わって退職するというケースが多いです。

【田原】雇用の安定はフィリピンの人にとってもありがたいでしょうね。

【藤岡】私たちは他人の軒先を借りて商売をしています。だったら、その国のためになることをしなきゃダメ。たんに教師の品質を高めるためだけなら先生以外の人はパートでいいはずですが、私たちはドライバーから掃除のスタッフまで、全員を正社員で雇っています。フィリピンと一緒に自分たちも成長できるシステムをつくることが、メイド・イン・ジャパンの経営のいいところだと思っています。

社長が魂で語りかければ従業員はついてくる

【田原】日本流の経営はフィリピンでも通用しますか。

【藤岡】日本流といっていいのかわかりませんが、私は縁や絆といったものを大事に経営しています。たぶん1000人くらいの規模までなら、社長が魂で語りかければ従業員もついてきてくれます。バイク便のときがそうだったし、いまも同じ。当初は「フィリピン人はドライだから、いい条件のところにすぐ移るよ」と脅されてましたが、私たちのところはそういった問題があまりありません。ただ、社員が10万人になるとよくわかりませんね。欧米式のきちんとしたマネジメント手法が必要になるのかもしれません。

【田原】ほかにも差別化のポイントはありますか。

【藤岡】ほかのオンライン英会話は、英語を学びたい生徒と教えたいアルバイトの先生とのマッチングサイトで、月会費を取ってしゃべり放題のシステムを採用しています。でも、これって伸びないんですよ。学習のメソッドも何もなく、自己紹介やフリートーキングばかりしていても上達しませんから。私たちは1回いくらのポイント制にしています。

【田原】しゃべり放題のほうがお得に感じるけど、どうですか。

【藤岡】経営側から見ると、しゃべり放題は幽霊会員ができることを期待するシステムなんです。生徒さんが月会費だけ払って授業を受けないのがもっとも儲かる。そして、会員数をどんどん増やして上場を目指す。そういうビジネスモデルです。でも、それが本当に生徒さんのためになるのか。私たちは英語の上達を最優先にしていますから、あえてポイント制にしています。

【田原】それだと儲からないんじゃないですか。

【藤岡】はい。しゃべり放題を採用している会社に、コテンパンに負けました(笑)。私たちはあまり大きくなれなくて、業界3位に甘んじています。ただ、世界を見るとまた違うと考えています。しゃべり放題のシステムは自動引き落としが必要ですが、何もしないうちからの自動引き落としが通用するのは日本くらいのもの。中国や韓国ではできません。世界で展開するなら、ポイント制に分があります。

学生の約半分は外国人

【田原】実際に日本以外でも展開しているんですか。

【藤岡】いま生徒さんはオンラインで1万人強、留学が約5000人ですが、半分が日本人で、半分はインターナショナル。中国、韓国、台湾、イラン、ロシア、ブラジル、ベトナムなど、いろんな国や地域の生徒さんが学んでいます。

【田原】そうですか。海外の生徒はどうやって獲得するんですか。

【藤岡】英語のサイトがあるので、それを見て勝手に来ます。あと、うちに留学していた生徒さんが、「自分の国でもやらせてくれ」といって母国でオフィスを開設するパターンが増えています。

【田原】子会社? それともフランチャイズみたいなものですか?

【藤岡】いちおう出資はしていますが、額は小さいです。フランチャイズになるのかな。集客や集金は自由にやってもらって、オンライン英会話のシステムは私たちのものを利用して先生にお金を払ってもらうという形にしています。

【田原】そうですか。逆にフィリピン以外に学校を置くことは考えてない?

【藤岡】どうでしょうか。英語を教えるのはフィリピン人が一番うまいと思っていますから、そこはこだわりたいです。別の国にフィリピン人を連れていって学校をやるということはありえるかもしれませんが。

【田原】ところで、オンラインと留学、売り上げはどちらが大きいんですか。

【藤岡】半分半分で、どちらも8億円前後です。じつは私たちのビジネスモデルは両方あるから成り立っています。私たちはセブで家賃が一番高いところにセンターを置いています。一方、料金は300校の中でもっとも安いという統計がある。高コスト、低料金が成り立つのは、センターを24時間で使い倒しているから。留学の授業がない時間もオンラインの授業で使うので、無駄がないのです。

【田原】なるほど。学習効果だけでなく、経営面でも両方やる意味があるということですね。