勝てる選挙演説のような“伝え方”

「大事なことは最初に伝えたほうがいいんです。最後まで“結局どうなったの?”と結論がわからないのはよくありません。」

たとえば桜の花を眺めているとしよう。

(普通)私は桜の木を見ています。
 ↓
(倒置)(私は)見ているんですよ、桜の木を。

「私はどうした」から入ることで行動がくっきりして、あとの対象をイメージしやすくなる。実はこの形、英語の文法そのままだ。

私は 見た。彼を。昨日。
I saw him yesterday.

日本語では、話をさんざん聞いたあげくに「私は昨日彼を ……見なかった」と最後まで結論がわからない。話が長くなるほどに、「結局どうなんだ」とじれったくさえなるし、ひっくり返った結論にガッカリする。だから、英語のように「結論」から伝えてあげることで明快な話ができるわけだ。

「たとえば、紅白歌合戦でご一緒したこともある笑福亭鶴瓶師匠のトーク術はすごいです。シンプルな文章を積み重ねることで、状況や自分の心情などを目に浮かぶように描写していきます。それこそ、そのまま英語にできるくらい明快な表現なんです。こうした人の話し方を真似てみるのもいいかと思います」

自分の話を直訳してみて、意外に英語になりやすいなぁと思ったら、それはうまい話し方のひとつとして成立している可能性が高いわけだ。

この松本さんの話し方、実はトランプ大統領の演説の手法に近い。もちろん、政策や人柄は抜きにしてだが、それは小学生にもわかる簡単な表現を、歴代最高の文法バリエーションで話すものだった(http://president.jp/articles/-/18281)。特徴は「短い紋切型」で、「問いかけ、答えを出し」、「文法や語順を豊かに変え」「話し方を使い分ける」こと。これが、破天荒さに加えてトランプ大統領の演説が人を引き付けた理由のひとつだった。

「誰が壁をつくるか?」<間 =誰だろう?>
「メキシコがつくる」「なぜか?」<間 =なぜだろう?>
「貿易黒字を出しているからだ」
最後には、聞き手を引き付ける法則とピタリと重なる「へえ」がある。

ビジネスでの会話やプレゼンでも、こうしたテクニックを心得ておくだけで人を引き付ける話につながるはずだ。

さて次回は、百戦錬磨の松本さんに、人の前で話すときのコツをうかがってみる。成功するヒントは「聞き手を、カボチャやジャガイモだと思わないこと」だそうだ――。

[脚注・参考資料]
Mikael Cho,The science of stage fright (and how to overcome it) - TED-ED
Amy Cuddy , Your body language shapes who you are, TED 2012

(上野陽子=文)
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