東芝を監査していた新日本監査法人は15年末に課徴金を課されるなど処分を受けた。ところが、驚いたことに経営者は罪に問われなさそうな気配だ。
東芝の不正会計問題について、証券取引等監視委員会(SESC)は「粉飾」だと認定、西田厚聰・元会長や佐々木則夫・元副会長、田中久雄・元社長らの責任は明らかだとして、東京地検特捜部に刑事告発するよう求めた。ところが、東京地検は立件は難しいという姿勢を崩していないのだ。3期9年にわたってSESCの委員長を務めた佐渡賢一氏は告発に執念を燃やしていたが、12月12日に退任し、「幕引き」になるとみられている。つまり、2000億円を超える巨額の利益かさ上げが行われたにもかかわらず、経営者の責任が不問に付されそうなのだ。
経営者個人の問題ではないとするならば、巨額の利益かさ上げは「組織ぐるみ」ということになる。企業風土が変わらないならば「腐ったリンゴ」を市場から排除しなければならない。つまり上場廃止である。
東証は15年9月、東芝を「特設注意市場銘柄」に指定した。1年たって内部管理体制が改善したと認められれば、解除されるはずだったが、東証の自主規制法人は、指定延長を決め、17年3月までに改善されるかどうかを判断することにした。最終結論は7月までに出る見通しだ(※2)。
東芝は二度と粉飾の起きない体制ができあがったとして「内部管理体制確認書」を提出したが、自主規制法人の理事たちの理解を得ることはできなかった。
関係者のひとりは、「どうせ日本を代表する企業であるわれわれを上場廃止になんぞできないだろう、という不遜な態度を痛感する」と語る。
実際、東証が東芝を上場廃止にするのは至難の業だ。上場廃止になればまっ先に損失を被るのは株主だからだ。経営者の問題をなぜ株主が負うのか、というわけだ。だが、1年半たっても社風が変わらないとすれば、株主が経営者にかけるプレッシャーが弱いためだと考えることもできる。
果たして東証がどんな判断をするのか。老舗企業を守るために、株式市場の信用を擲つのか。東芝への対応はまさに試金石である。
注1:辞任した萩平和巳前社長は、日刊工業新聞の記事(16年10月19日付)で、将来目標について「2020年には、総合コンサルティングファームとして国内トップになりたい」と答えていた。
注2:東京証券取引所「特設注意市場銘柄の指定継続:(株)東芝」(2016年12月19日)
http://www.jpx.co.jp/news/1021/20161219-14.html