東京電力の原子力改革監視委員会副委員長を務めるかたわら、今年6月にはLIXILグループの社外取締役に就いたバーバラ・ジャッジ女史。企業法務の弁護士からスタートし、欧米でのビジネスや米国証券取引委員会(SEC)のコミッショナーなど公職での経験が長く、現在はイギリス経営者協会の理事長の任にある。いわば、働く女性のフロントランナーである彼女に、日本のコーポレートガバナンスと女性の社会進出について聞いた。
不祥事が起きたとき企業統治が問われる
――この7月、日本では東芝の不適切会計が発覚して世間を騒がせました。バーバラさんは、6月にLIXILグループの社外取締役に就任されていますが、日本のコーポレートガバナンスをどう見ますか。
【バーバラ・ジャッジ】私の経験では、企業統治の問題が取り沙汰されるのは、企業不祥事が起きたときです。アメリカなら、1929年に一部の企業が株価操作したことで発生した「株価大暴落」で、これは世界恐慌に発展しています。この事件が、34年の米国証券取引委員会(SEC)設立のきっかけとなりました。イギリスでも91年、メディア王として知られたロバート・マクスウェルによる企業年金資金を私的に流用した事件があります。その結果、受給権保護を目的とした「1995年年金法」が成立しました。
このように、企業統治は古くて新しい問題です。そのことは、日本でも同じで、スキャンダルがあるたびにコーポレートガバナンスが俎上にあがったはずです。欧米では、チェック機能を果たすべき役員会や取締役の責任が重くなっていきました。要は、企業のトップがきちんとした振る舞いをしているかどうかを見張っているのが取締役の役目です。と同時に、社外取締役も増えていきます。アメリカではCEOや法務、財務のトップ以外は外部の人、イギリスでは半数がそうです。おそらく日本も、そうした方向に進んでいくでしょう。
――事実、今年6月に金融庁と東京証券取引所が、社外取締役2人の就任を義務化しました。それによって、カバナンス強化を図ろうしています。
【バーバラ】イギリスも最初は義務ではなかったのですが、いまはルール化されました。その意味では、賢明な方法だと思います。社外取締役を入れるのは、単に経営監視のためだけではありません。自社のマネジメントに、新たな視点が加わるわけですし、違った経験も移植できます。つまり、他社の経営やマーケティング、さらにはリスク管理などのノウハウが共有できる。そのためには、幅広い分野から社外取締役を集めることも大切でしょう。日本のビジネスマンだけですと、非常に有能ではあっても、似たような発想しか得られないかもしれません。
特に、グローバル化が進んでいる昨今の情勢を考えればなおさらです。日本以外の国で、多種多様な戦略を展開してきた企業の人たちの知見を活用しない手はありません。海外で、より強い競争力を持って戦えるような手伝いもしてくれる人物を見つけてください。いうまでもないことですが、女性、外国人も有力な候補です。欧米でも、社外取締役への期待が持たれるようになったのは90年代に入ったからで、それまでは「魚の上に乗せたパセリ。それがまさに社外取締役だ」というジョークがあったぐらいです。