自称「取引の天才」、その手応えは?

次に、「ハードネゴシエーター」と「交渉戦略×マーケティング戦略」という点は、セットで理解する必要がある。交渉相手として見たら、「ハードネゴシエーター」であることは言うまでもないが、一部の識者が指摘しているような「ハードボールを最初に投げておいて、そこから落とし処を探る」といった単純な交渉術を「交渉戦略」と言っているのでないことは明らかである。

交渉戦略やゲーム理論は、トランプが卒業したウォートンを始めとする米国のビジネススクールでは必修科目である。そこでは利害関係者の利害分析や複数のシナリオ分析から始まって、最後にはベースケース・ワーストケース・ベストケースなどの交渉戦略を策定し、さらにはどのような交渉戦術で戦っていくのかを学ぶのだ。

交渉戦略における利害関係者分析においては、「抵抗しない・抵抗する・反対する×協力しない・協力したい・賛成する」の3×3の掛け合わせで導かれる利害関係者反応マトリックスなどを策定することは常套手段である。その知見が生かされたのが今回の大統領戦でのターゲット戦略でもあったわけだ。「ハードボールを最初に投げておいて、そこから落とし処を探る」といった単純な交渉術をもって、自らのことを「取引の天才」と称しているわけではないのは確実だろう。

なお、複数の共和党のメンバーから直接聞いた話では、トランプ側近には中国の南沙諸島軍事拠点化に懸念を示すメンバーが多く、トランプ自身も同様に快く思っていないようである。2016年12月に、トランプは正式な外交関係がない台湾総統と異例の電話会談を行った。これに対し中国外交部は、米国の関係各所に申し入れを行ったと明らかにした。この電話の一件は、私には、トランプが単に経済面での交渉のジャブとして中国に放ったものではないような気がするのだ。