福島の人の態度を変えた最初の一言

常に相手を「主役」として位置づけようとすること、これも彼ならではのコミュニケーション術だ。

政治家はあらゆる会合で主役に位置づけられ、注目される側、興味を持たれる側にある。しかし、参加者側への興味がないように見えてしまえば、支持を集めることはできない。そこで進次郎は、誰に対しても自分から進んで質問を投げかける。わからないこと、気になることをその場で次々と聞き、相手の気持ちを引き出す。進次郎に向けられたベクトルが相手へと自然に変換される様には驚く。

東日本大震災が起きた数年後、進次郎は福島県のりんご農園に視察に行った。農家の人たちは政治家の相手ができないほど放射性物質の除染作業で多忙を極めていたが、進次郎は開口一番こう言った。

(進)「私に何かお手伝いできることはないでしょうか」
(相)「じゃあ、除染作業を一緒にやってください」

除染作業の方法を教えてもらい、慣れない手つきでホースを持って除染作業を終える頃、進次郎が「ご主人、私の作業の出来栄えは何点でしょうか」と言うと、主人は「マイナス10点!」と言って笑っていた。進次郎は最初の謙虚な一言で農家の人をその場での「主役」にさせ、自分は教えを請う側に徹するという真摯な態度で心をつかんだのだ。

相手を立てることの大切さは、我々報道陣に対しても同様だ。

共同インタビューの際、記者が尋ねると、進次郎は「○○さんのその質問ですが……」と、相手の名前を呼んで返事をする。自分の存在が認識されていると思うと、私のように批判的な記事を書こうとする記者も悪い気はしない。

さらに、こんな好例もある。

農林部会でJAグループに改革を迫るような挑発的な発言をしたときのこと。共同インタビューの場で、JAの傘下にある日本農業新聞の記者に「きょうの話を丸めることなく全部書いてくださいね」と皆の前で念を押したことがあった。言われたほうは、多くの報道陣の前で恥をかかされた気持ちにもなるが、進次郎にとっては、あくまでもJAに対するメッセージだ。インタビュー終了後に何気なくその記者に近寄って、「でも、記事の中身は上司が書くんだよね」と、逃げ道をつくってあげた。

怒るべき問題には怒り、一方で、個人に対してはフォローをする。その二段構えで臨むことを忘れない。人が組織を動かしている以上、個人の人格まで否定してしまうと何も動かなくなってしまうことを心得ているのだろう。

▼オキテ 相手を主役にして、話を聞くべし