レースは理屈じゃない、勝つ者が正義なんだ
世界のタイヤ市場(15年)はブリヂストン、仏ミシュラン、米グッドイヤーの3強でおよそ4割を占める。続いて独コンチネンタル、伊ピレリ、住友ゴムなど中堅約10社の第2グループが3割を形成。残りの3割に新興国の中小メーカーがひしめき合う。
そのなかでブリヂストンが断トツの1位にこだわる原点には、レースにかけるブリヂストンマンの情熱がある。
「F1がやりたくて入社しました」と語るのは、中央研究所担当の森田浩一だ。森田は入社19年後の05年のシーズンに念願が叶って、材料課長としてF1タイヤを手掛けている。その森田に「なぜ1位なのか」と尋ねると即答した。
「お話にならない。ポールポジションが当然で、そこから2位との差をどれだけつけられるかです。グローバルナンバーワン企業の研究開発に求められるのはそういうことです」(森田)。
カーメーカーが投入する新車向けのタイヤ(OEタイヤ)の開発を担当するグローバル直需戦略担当、市川良彦も「レースがしたくてこの会社を選んだ」という一人だ。市川は、80年代にグループCと呼ばれた高出力エンジンのマシンタイヤの開発を手掛けた。その彼も「レースは理屈じゃありません。勝つ者が正義なんです」と断言する。過酷なモータースポーツの世界で常勝を目指してきたブリヂストンマンのハートには、理屈抜きにグローバル1位を目指す執着が深く根を下ろしている。
タイヤメーカーにとって製品の性能を飛躍的に上げ、世界に品質を証明する最高の舞台となるのがレースだ。ブリヂストンも60年代からモータースポーツのフィールドに果敢に挑んできた。そして80年代には国内の主だったレースを制覇し、やがて海外の伝統的なレースに舞台を移す。独DTM(ドイツツーリングカー選手権)、仏ル・マン24時間耐久レース、米インディカーレースへと挑戦し、次々と勝利して実績を積んだ。そして97年にモータースポーツの最高峰、F1に参戦すると、宿敵ミシュランを制しチャンピオンの座を獲得。ブリヂストンは、「世界最速のタイヤ」という称号を手にした。