新規客だけではしんどい

以前、ある飲食店経営者のネット上での投稿が物議を醸したことがあります。内容を端的にまとめると、「『あんないい店が閉店しちゃうなんて残念』という人がいるけれど、それはいい店だと思っているのに通わなかったあなたのせいでもある」というものです。これに対しては、飲食店関係者からは共感する声が大きかった一方で、「結局、ファンをつくるだけの魅力がなかった店舗の言い訳でしかない」というネガティブな反応も強くありました。

本当にいい店はきちんと繁盛しているので、「言い訳」と言われれば確かにそうだなと思います。とはいえ、今時の飲食店とお客の関係性には難しい点もあるような気がしてなりません。それは「ホッピング」とでも表現すべき、店から店へと移り歩くお客の消費スタイルに起因します。グルメガイドやグルメサイトをもとに評判の高い店を訪れ、「次はどこの店に行こうか」と新規開拓を続ける人が世の中にはたくさん存在します。

お客としては、いつも新鮮な気持ちで店を「評価」できるので、それは楽しいことかもしれません。

しかし店側からすれば、いつもいつも新規客を迎え入れるばかりでは、そのお客に何を出して、どんな風にもてなせば喜んでくれるかは、なかなかつかむことができません。新しいお客さんに来てもらうことは大切なことではありますが、そればかりではしんどいというのが正直なところです。

このような事態を招いているのは飲食店自身の責任でもあります。店が行う売上アップのための「販促」と言えば、露出を増やしたり、クーポンで強引に集客したりと、新規客獲得のための手ばかりでした。しかし、ビジネスの基本と言えば、いかにリピート客を増やして安定的な収益に繋げるかに他なりません。多くの飲食店は「常連さんを大事に」と口では言いながらも、肝心の打ち手は「金を使って新規客を呼び寄せる」ことに終始してきたのです。