読書会でも講演会でもない。代官山 蔦屋書店で3カ月に1度開催されている「代官山人文カフェ」は人文書で扱われるテーマを著者と参加者で語り合う場だ。「分析的実存哲学」や「思想史的考察」といった一見近づきがたい内容の本を扱いながら、なぜ毎回数十名もの人が集まるのか。イベントを主催する代官山 蔦屋書店人文コンシェルジュの宮台由美子さんに聞いた――。
代官山人文カフェでは参加者同士が同じテーマをめぐって「言葉をかわすこと」を大切にしている。第11回目のこの日は学校や企業で取り入られはじめている哲学対話の実践者4人が登壇した
撮影=吉田直人
代官山人文カフェでは参加者同士が同じテーマをめぐって「言葉をかわすこと」を大切にしている。第11回目のこの日は学校や企業で取り入られはじめている哲学対話の実践者4人が登壇した

与えられた場で自由に考え、自由に話すことはできるのか

「与えられた場で自由に考え、自由に話すことはできるのか?」

そんな問いかけからイベントははじまった。代官山 蔦屋書店で3カ月に1度ほど開催されている「代官山人文カフェ」の一幕だ。この日のゲストは、学校や企業で哲学対話を実践する「こども哲学おとな哲学アーダコーダ」のメンバー4名だ。

書店でのイベントを「もう一工夫できないか」といつも考えている宮台由美子さんもヒントがたくさんあったとお薦めの一冊です。
書店でのイベントを「もう一工夫できないか」といつも考えている宮台由美子さんもヒントがたくさんあったとお薦めの一冊

「自由に話すことより、考えることが大事では?」
「じゃあ、“自由に考える”って、どういうこと?」
「与えられたテーマがある時点で、“自由”と言えるの?」

ゲスト同士の会話が深まる中、30名ほどの参加者は、ただじっと聴いている。会の中盤、おもむろに一人の参加者が立ち上がって言った。「もう(店を)出ないといけないけれど、1つだけいいですか……」。会場の均衡が破られた。男性は続けた。

「この場をすごく不自由に感じていました。ルールがないと、身体は不自由になる。会のはじめにルールが明示されていれば、それに対する何らかの反応を起こすことができた。ルールがないことによる抑圧もある」

登壇者は、場のルールを決めずに自分たちだけで対話に入った。そのことが、参加者の身体を縛っていたのではないか――。この日のテーマである「与えられた場で自由に考え、自由に話すことはできるのか?」に対する男性なりの答えだったのだろう。この発言を境に登壇者と参加者の間に対話の水路ができ、次々と発言が続いた。

「今日はスリリングな会でしたね……」

イベントの企画をした代官山 蔦屋書店の人文コンシェルジュ、宮台由美子さんは、終了後に静かにそう言った。