そのドキュメンタリー映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』で描かれるカニンガムさんの仕事ぶりは、印象的である。自転車に乗って、どこにでも出かけていく。人々の服を、帽子を、そして靴をじっと見ている。

そのようにして「観測」しているうちに、何か動きが見えてくるのだという。「ああ、穴の開いたスニーカーが多いな」というように。そのような「トレンドの種」が、同時に10くらい頭の中に浮かぶのだと、カニンガムさんは言う。

そして、そのような「種」が、カニンガムさんの中で整理され、編集されていく。

カニンガムさんがストリートで拾い、編集したファッションのトレンドの種は、やがて、ニューヨーク・タイムズなどのメディアに掲載され、無名の人が有名になり、流行のうねりがつくられていった。そのような動きの真ん中に、カニンガムさんがいた。

カニンガムさんが伝説的な存在になった理由の1つは、その立ち位置にあると言えるだろう。ファッションを、「上からの押し付け」と捉えるのではなく、人々の中から立ち上がるものとして捉えた。その流れを、カニンガムさんは、謙虚に、そして誠実に追いかけた。

ドキュメンタリー映画の中にも出てくるが、カニンガムさんは、飾らない人だった。雨の時に着る愛用のポンチョは、穴だらけ。新しいものを買ってもどうせすぐ穴が開くからと、黒いガムテープを張って、着続けた。

ストリートを見つめ続けたカニンガムさん。テープで修理した愛用のポンチョ自体が、最高のファッションだった。

(写真=AFLO)
関連記事
「消費しない若者」を動かす方法はあるか
「ダサピンク現象」から考える、女性が“本当に求めている”モノ
「妖怪ウォッチ」の原点は「江戸妖怪大図鑑」だった
なぜ、雑誌Martに取り上げられる商品はヒットするのか
大ブームの仕掛け人が語る行列のつくり方