それは、法人需要に特化するという方針だった。この方針のもとでパナソニックが注目したのが、外回りの仕事の道具としてパソコンを使うビジネスマンである。彼らにとっては、スタイリッシュであることや安価であることよりも、持ち運びしやすく、どこでも仕事がしやすいことや、持ち歩いてもトラブルが起きにくいことのほうが重要となる。
このニーズにしっかりとこたえていけば、メガヒットは見込めなくても、収益性を保ちながら事業の着実な成長を果たすことは可能だ。これは、今のパナソニックの新しい進路を先取りする動きだったともいえる。
現在では「レッツノート」の年間出荷台数の75%程度が法人向けだという。そこでは、顧客の声の収集や観察を重ね、何が最優先で必要となるかを見定めながらの開発が進む。
たとえば、「レッツノート」ではドライブ内蔵型の機種を現在でも用意している。これは製薬会社などの営業現場では、詳細な商品情報やマニュアルをディスクでやり取りすることが多いことを踏まえた設定だという。
堅調な業績を維持する「レッツノート」。そこでは、ベンチマーキングとは一線を画したマーケティングが進められている。コンセプト・シナジー代表取締役の高杉康成氏も著書で指摘するように、ベンチマーキングのような、あらゆる機能や仕様で競合製品をしのぐことに活路を見いだすアプローチの盲点は、競合製品の戦略が常に正しいとは限らないことにある(『一流ビジネスマンは誰でも知っているヒットの原理』日経BP社、15年、180ページ)。特に市場が拡大していないような産業では、ベンチマーキングには、競合製品も直面しているダウントレンドへの追従を導きかねない危険がある。
さらにいえば、ベンチマーキングのような「足し算」の競争は、価格であれ、スペックであれ、不可避的に数の勝負に陥っていく。そこには、磨く機能を絞って他を捨てる「引き算」でうまく競争を回避し、創造的な市場を取りに行く発想が欠けているのである。
市場での創造的な競争回避のカギは、不特定多数の顧客の必要を漫然と追うのではなく、用途を絞り込むことだ。そうしたほうが、どのような商品であれば、価格訴求に頼らずとも購入してもらえるかが見定めやすい。このようにビジネスには、小さいことが強みとなる状況がある。