地域エコノミストとして知られる日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は、中小地方企業の具体的な事例を挙げながら大企業に依拠しない経済循環のあり方を提示していく。その意外な戦略とは、いったいどういったビジネスモデルなのか。

トヨタのお膝元で成功した意外な事例

先日、愛知県豊田市内にある2つの企業で見聞した、興味深い地方創生の成功事例についてお話ししよう。

日本総合研究所・藻谷浩介主席研究員(撮影=青木優佳)

驚いたのは自動車部品の輸送会社を新たに起業し、成功を収めている例。豊田市の自動車関連産業といえば、トヨタ生産方式で徹底的にコストダウンが行われ、いわばガチガチに乾いた雑巾と化した状態。新規参入の余地などないように思われがちだ。

起業したのは、佐川急便出身の人間。私は、ホントに儲かっているの? 佐川にいたほうがマシだったんじゃないの? と疑問をもった。

聞けば、従来のトヨタ流のコストダウンが逆にコストを増やす面があることに気づき、起業の芽を見出したという。「よく精査すると、イチから合理的な物流体制を構築した方が物流コストを下げられ、儲かることがわかった」と話す。

自動車業界は歩留まりが重要な業界だが、コストを削りすぎた運び方では、自動車部品は一定の割合で傷む。歩留まりを0.1%単位で上げたい依頼主にしてみれば、輸送料を安く抑えて破損を出すより、ある程度は輸送料を支払ったほうがいいと考える。トータルコストを考えれば、結果的にそのほうが安くつくのだ。

さらに佐川急便時代に消費者物流の宅配便で培ったノウハウを活かすことにも成功した。ロットも納期も相手先もまちまちの消費者物流のノウハウを産業物流に導入すると、はるかにきめの細かいサービスが提供できる。在庫の滞留時間も少なくなった。

この教訓は、完成された体系に安住するすべての業界にあてはまるのではないか。