「マニア」が高スキル技術者に化ける

もうひとつは、減速機に使われる特殊なギアを専門につくっている会社の例である。電池で動く模型には必ず入っている、歯車の組み合わせだ。

歯車なんて差別化が困難な究極のコモディティと思われがち。しかしこの会社の歯車には溝はあるが歯がない。極めてクリエイティブな設計で、エネルギー損失を究極にまで減らすことができる。他社の工員だった先代が独自に生み出した工夫だ。

私が会った副社長は文系学部を出たのだが、親譲りでさらに工夫を凝らした形状を発想できるアイデアマンである。本人は「現場で勉強するうちに、関数電卓を叩くのは当たり前になり、すっかり理系になっていた」という。

同社は従業員数70人程度。減速機は車にも使うが、むしろあらゆる工作機械の中にモーターとセットで組み込まれるものだ。所在は豊田でもトヨタ系列には入らず、世界中の工作機械メーカーと取引を開拓している。相手の特殊なニーズに合わせてその都度開発するものなので、日々が技術革新だ。まさに『下町ロケット』を思わせる部品メーカーである。

気になるのは人材だが、類は友を呼ぶというのか、社長のアイデアを精密な部品として仕上げたいという工作マニアのような人材が同社には集まっている。学歴も中卒から大卒まで幅広い。社長曰く「技術者に学歴は関係なく、中卒でも大学院卒でも優秀な人間は優秀、ダメなのはダメ。マニアックな人材が集まって、スキルに溢れた技術者に育っていく」

東京のノウハウは大企業のノウハウであり、それは地方には通用しない、と前編(http://president.jp/articles/-/20151)で述べた。ここで挙げた2社は豊田にありながら、大企業のノウハウとは異なるところで企業としての活路を見出しているのが特徴である。地方創生を成功させるキーワードがそこにある。