「レッツノート」はシェア2%台でも異色の存在
無論、競争の行方はコストだけで決まるわけではない。差別化というアプローチもある。
差別化は、自社商品の独自の魅力を磨くことで編み出される。多少割高でも、独自の操作感や耐久性で顧客を魅了すれば、市場は獲得できる。差別化を実現すれば、コスト面での優位性はなくても、高い収益性の確保は可能である。
差別化に難点があるとすれば、それは、その実現が特殊用途に限定されがちであり、市場の広がりを求めにくい点である。だが産業のグローバル化が進めば、その前提も変わる。特殊な用途に限定されるのだとしても、販売を世界に広げることができるのであれば、規模の限界は緩和されるわけだ。グローバル競争では、中途半端にシェアを追うよりも、差別化された小さな事業を積み上げていくほうが、収益性を高めるうえでは確実だというケースが増えてくる。
いたずらにメガヒットを追うのではなく、特定の顧客に特別な価値を確実に提供する事業を数多くつくる。この新しい路線を語るなかで、津賀社長が挙げているのがノートパソコンの「レッツノート」である。
パナソニックのパソコン事業は、規模で競合他社を圧倒しているわけではない。現在でも、出荷台数ベースの国内シェアでは2%台にすぎず、世界シェアでは上位10社に入らない。しかし「レッツノート」は、近年の価格低下が進むパソコン市場にあって、異色の存在だ。市場シェアではむしろ上位にある企業の苦戦を横目に、高価格帯での着実な販売を維持している。
このような展開が可能なのも、パナソニックのパソコン事業は、「誰にしっかり満足してもらうか」が明確だからである。パナソニックは、軽くて、丈夫で、長時間駆動のノートパソコンの開発に力を入れてきた。薄さを競うウルトラブックのようなトレンド追従型の製品は投入しないことで知られる。
パナソニックが「レッツノート」を発売したのは96年。しかし、市場シェアは低迷し、苦戦が続いた。そのなかで00年代前半に、当時のパナソニックでは異色ともいえる方針が決断された。