黒ラベルは関西で知られていなかった!?

「これ、ちょっと弱いんちゃう?」

大手チェーンストア、平和堂のバイヤー、三田村泰成は渋い顔で言った。

その目の前にあるのは黒ラベルの星のマークにちなんだ七夕フェアの企画書。サッポロビール近畿圏本部流通営業統括部に所属する齊藤亮が、今年初めて提案したものだ。内容は七夕用のボードを置いて、クーラートート付き6缶パックの販売をするというもの。しかし、三田村の反応は「ノー」。

悪いことは重なるものだ。企画を練り直し、2度目の提案に臨んだところ、イメージ画像を見た三田村に「(陳列する)箱はどうなん?」と訊ねられる。確認して齊藤は一瞬、血の気が失せた。店舗に並べる箱が見栄えのいい白でなく、普通の茶色の段ボールだったのだ。

すぐに本社に電話をして、箱を隠すポップをつくってほしいと頼み込む。

「大口の受注が取れそうなんですけど、段ボールがネックになって最終合意ができないんです」。

必死に訴える齊藤に本社も動き、特別にポップを作製してもらえることになった。何度目かの提案で、三田村からようやくのゴーサイン。注文は堂々の2000ケース。大きな成果だ。

「齊藤さんはいつも全力でぶつかってきて、こちらの要望に応えようとしてくれる。たまにミスもするけれど、ちゃんと挽回しはりますから」と三田村。

(上)平和堂のアル・プラザ草津店の七夕用ディスプレイ。黒ラベルの「☆」と七夕をかけて売り場を盛り上げる。オリジナルのクーラートートバッグに6缶が入ったセットを発売。ラック下に積まれた箱は、当初は茶色の段ボールだった。
(下)ビール近畿圏本部 流通営業統括部 第3営業部の齊藤亮さん(左)と、ともに営業する小寺貴浩さん(右)。平和堂の敏腕バイヤー、三田村泰成さん(中央)。

平和堂は近畿を中心に2業態151店舗を展開しているが、その全店の仕入れを三田村が握っている。催事に合わせて各社からあがる企画を採択するのもまた彼だ。逆にいえば、全店の酒類の売り上げは三田村の双肩にかかり、おのずと選ぶ目もシビアになる。他社より魅力的な企画を出して、三田村に選ばれること。それがそのままビール類の販売数に直結すると言っても過言ではない。

13年にメーカーから転職してきた齊藤が、日々、心がけているのはこまめに足を運ぶことだという。フェーストゥフェースの営業だ。

「メールや電話で済む用件でも、顔を合わせてちょっと話すだけで違います。感情も伝わるし、先方の反応も表情から読める。僕はこの業界が短く、経験も知識も少ない。フットワークであったり、人間性であったりというところで勝負するしかないんです」