誰が食べてもいい「ゆるい食堂」

僕が公共事業をお手伝いしている福井県鯖江市でも、市民活動のひとつとしてこども食堂をやろうという話になりました。そして、地元のスーパーや生協、商店などから余った食材の提供をお願いしました。ただし僕たちは、「恵まれない子どもたちのために」といった弱者支援のような態度はやめようと決めました。

代わりに僕たちが重視したのは、まず、食堂には「誰が来てもいい」ということです。貧困対策に携わる市民団体とも連携はしていますが、対象者を限定せず、あらゆる市民を対象にしています。もちろん、本当に困っている子や、普段一人でさみしく食事している子にも来てほしい。ただ、誰でも気軽に来て食べられるし、お代わり自由で、わいわい騒いで好きなだけ食べられる。誰にでも開かれた場であり、そのなかで「食べる」という幸福をみんなで体験できるような場にしたいという思いから、「ゆるい食堂」と名づけました。つまり、基本的にはごはんをみんなで楽しく食べる、というだけの場所なのです。

「ゆるい食堂」のもう一つのこだわりは、「食事をつくる人も楽しむ」ということです。食事に困っている子どもたちのためとか、貧困をなくすためという大げさな正義を大上段に構えるのではなく、まずはつくり手自身が得意の料理の腕で提供してもらった食材を活かし、楽しみながら運営できる場を目指しました。そのような趣旨で声をかけたら、賛同するお母さんたちが毎回10人以上集まってくれました。

スーパーや商店から余った食材を提供してもらうため、当日にならなければどんな食材が集まるか分かりません。だからメニューも当日にならないと決められない。それでも、お母さんたちは忙しい毎日のなかで家族のために手際よくおいしい食事をつくるプロフェッショナルなので、そういう機転の利かせ方が得意です。当日やってみたら、約2時間の準備時間の中で10種類以上の充実したメニューができました。そして、会場に来てくれた100人近くの親子に対して、すべて無料で食事を提供できました。