まずは自分たちが楽しむこと

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任講師
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
http://wakashin.com/

終わったあとに、食事をつくってくれたお母さんたちは、「毎週でもやりたい」と言ってくれました。食材の準備などが大変なので、隔月での実施を予定していますが、自分たちがなにかをつくって提供するという充実した体験ができたからこそ、お母さんたちはそのように言ってくれたのだと思います。

100人に食事が無償提供できても、社会的にはきわめて微力です。正義を掲げても、問題は簡単には解決しません。まずは何よりも、自分たちが「楽しい」と思って取り組めることが、こうした市民活動の裾野を広げていくためにとても大切なことだと思います。

最初から「施し」の色が強くなることに違和感があるのは、正義の意識が強くなると、自分たちの勝手な理想で市民同士の衝突やトラブルを引き起こし、市民活動を窮屈であぶないものにしてしまいかねないからです。市民のボランティアにできることは限られていて、結局は手の届く範囲にしかサービスを提供できません。本当に必要なものをあまねく広く提供するには、政府や自治体が税金を使って公共事業として展開する必要があります。

市民活動の意義は、公共社会との接続窓口であるということだと思っています。自分の正義を体現する場所でもなければ、その責任をとれるようなものでもありません。まずは、自分のライフスタイルの中に、楽しくて前向きな時間のひとつとして取り入れていくことができればいいのではないでしょうか。活動に参加する人たちが楽しければ、「だったら私もやりたい」という人が徐々に増えていって、それが各地に広がっていく。そうすればいつかは、新しい社会インフラのひとつになっていくかもしれません。

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