終わりの見えない内戦に陥って、やはり難民の発生源になっているシリアにしても、オバマ政権はアプローチを間違えた。オバマ大統領はシリア政府が化学兵器を使用したことを理由に軍事攻撃をちらつかせて、アサド大統領の退陣を求めた。しかしシリアと後ろ盾になっているロシアとの歴史的関係を理解すれば、アサドを退陣に追い込むのはそれほど簡単ではないことがわかるはずだ。オバマ政権は愚かにも反政府勢力を支援するが、有象無象の部隊が集まった反政府勢力では和平交渉もまともに進まない。ISやクルド人が入り込んで反政府勢力同士の抗争が勃発、内戦は泥沼化していく。
イラクの失敗からシリアには派兵もできず、事態をまったく収拾できないアメリカに対して、IS対策(本音は反政府軍叩き)を理由に参戦したロシアは短期間で見事な成果を上げて、死にかけていたアサド政権は息を吹き返してしまった。オバマ大統領は「ロシアとの共同作戦でシリアは安定してきた」などと後出しジャンケンのようなコメントをしているが、一連のシリア情勢でロシアの株は上がり、アメリカは無力さを世界にさらけ出しただけだった。
リーダーなき混沌の世界をつくった
イランとの関係改善やキューバとの国交回復をオバマ外交の成果に挙げる向きもあるだろう。イランと欧米の6カ国協議において、イランの核開発を制限する代わりにイランへの経済制裁を段階的に解除することが決まった。オバマ政権もイランとの対話を始めたが、これに激怒しているのがイスラエルとサウジだ。イランの核の脅威にさらされているイスラエルからすれば、イランの合意など信用できない。一方のサウジ(スンニ派)としては石油埋蔵量世界第4位のイラン(シーア派)が経済制裁を解かれて石油市場に復活すれば、OPEC(石油輸出国機構)は機能不全に陥りかねない。オバマは宗教上のみならず経済上でも不都合な合意をいとも簡単にやってくれた、という怒りがサウジにはある。
長年、アメリカの中東政策の基本はイスラエルとサウジを守ることだった。しかし博愛的なオバマ外交の結果として、盟友だったイスラエルとサウジは、「アメリカ、信ずるに足らず」という強烈な信念を抱くようになった。今やアメリカと両国との関係は中東の不安定要因と化している。