キューバとの国交回復にしても、自分のレガシーのために古い公約を引っ張り出してきたように感じる。キューバはカストロ兄弟による支配が終わったわけではない。アメリカが世界に振り撒く民主主義の信念を貫くのなら、独裁者が去った後、民主化プロセスを受け入れたときに国交回復すべきだろう。
ノーベル平和賞をもらった「核なき世界」のコンセプトにしても何一つ成果を残していない。私だったら毎日のようにロシアのプーチン大統領に電話した後、顔を突き合わせて、米ロが保有する1万5000発の核弾頭の90%削減を何としても自分の代で実現させる。それがノーベル平和賞というレガシーの重みだ。
単に歴史上稀に見る無能な大統領だったというだけではない。オバマ政権の8年間で、G1と呼ばれた世界最大最強の軍事力と経済力を持ち合わせたアメリカという国が急速に力を失いG0、つまりリーダーなき混沌、の象徴となってしまった。ディシプリンのなさ、信念の弱さ、身勝手さを世界は思い知った。アメリカに任せていても何も解決しない、いや、混乱が広まるだけだ、という確信を、中近東やヨーロッパの人々に与えた8年だったと思う。
(小川 剛=構成 AFLO=写真)