「被告人は端的に答えてください」

覚えておいてほしいのは、こうしたミスを防ぐ方法を裁判所が教えてくれていることだ。尋問に入る前、裁判長はこのように言う。

「被告人は聞かれたことに対し、なるべく端的に答えてください」

基本はイエスかノーかで良いのだ。で、それ以上の説明を求められたときだけ、堂々と発言すればいい。それが要領を得ないことばだとしても“言い訳感”はずいぶん薄れる。冒頭の会話で試してみよう。

(検)「ではもう一度訪ねます。あなたは、あなたの意志で衣料品その他、計12万2000円相当の品物を盗んだ。間違いないですね」
(被)「間違いありません」
(検)「盗んだその日に、品物をネットオークションに出品していますよ。転売目的で盗んだんじゃないんですか」
(被)「その気持ちはありました」
(検)「出品するために盗んだんですね」
(被)「はい。その気持ちはありました」

有利にも不利にもならないこの答え方こそが、相手の勢いを削ぎ、挽回のチャンス(弁護人質問)につなげる守備の固め方だろう。自分の味方である弁護人は、言い訳がましくない発言をさせる方法を熟知しているので、流れに乗って答えるだけで、被告人の言いたいことは伝えられる。

ビジネスシーンでも基本は同じだ。

誰だって追い込まれれば言い訳のひとつもしたくなる。でも、ストレートにそれをぶつけても、相手の心に響かないばかりか評価まで落としかねない。ミスをしたとき、もっとも避けたいのはチャンスを奪われることだ。

裁判でいえば実刑判決である。少々肩身は狭くても、プロジェクトから外されたり左遷の憂き目にあったりすることなく仕事が続行できたら、失地回復の機会はいずれやってくる。

ぼくはいまだかつて、検察の尋問における被告人の言い訳が功を奏した場面を見たことがない。“負けて勝つ”ための執行猶予付判決を得るためにも、言い訳の誘惑にグッと堪えてほしいと思う。

▼今回の「教訓」
――言い訳を しない男は 負けて勝つ
【解説】窮地の言い訳は人の本能のなせる技。しかし、それは三流がやること。裁判官や上司は「言い訳を聞くプロ」。その心に響かせることなどできない。そもそもが、馬耳東風なのだ。ならば、実行すべきは、過ちを認め、腹をくくり、許しを乞わないこと。それが失地回復への近道なのだ。

 

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