経済成長と貧困の両方に効く「子育て支援」

ところで、こうした子育て支援を取り巻く言論・政治の世界では、保守派は市場中心主義を標榜して経済成長を重視し、左派、リベラルは機会の平等を掲げて社会保障政策を重視する傾向が強く、両方を同時に立てるのは一見、難しいかに思われる。

が、実は、子育て支援はその双方に寄与する。つまり、経済成長率を高めるとともに、子どもの貧困(機会の不平等)を減らすことができる。

以下で検証してみよう。日本を含むOECD28カ国の国際時系列データ(1980~2009年)を用いて私が行った9つの統計分析によれば、保育サービスの拡充は、「女性の労働力率を高める」「出生率を引き上げる」という2つのルートで経済成長に寄与する。これが今後の日本でもあてはまると仮定した場合、どんな政策効果が期待できるだろうか。

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図3 保育サービスはこうして「経済成長」に繋がる

女性労働力率の上昇は労働生産性を高める。例えば労働政策研究・研修機構による全国企業調査や、経済産業研究所による全国企業調査によれば、女性の人材活用が進んでいる企業ほど生産性が高い傾向にある。

これは、女性の発想が供給側に採り入れられることで、消費者(半分が女性)の立場に立った製品やサービスが生まれやすくなるからである。また女性は、これまで家事育児を担いがちだったため短時間労働を望む傾向が強く、時間あたりの生産性を高めやすい。結果として全体の生産性が向上するのである。

労働生産性の向上は、経済成長率に直結する。私の分析によれば、GDP比で0.1%分(約5000億円)だけ保育サービス予算を増やすと、1人あたり実質GDPが0.28%上昇すると試算されている。

また保育サービスを拡充させることは、子育ての負担や不安を軽減させるので、出生率も引き上げる。それにより高齢化が抑制され、需要が増え、生産性と経済成長率が高まる。

さらに、保育サービスの拡充は、子どもの貧困を減らすことにもつながる。まず、保育への公的補助が増えて保育費が安くなり、家計負担が減る。また、保育のおかげで母親が働けるようになり、家計収入が増える。こうして子育て世帯の家計に余裕ができ、子どもの貧困が減るのだ。

しかし保育サービスはまだまだ不足しており、待機児童が大量に存在する。待機児童とは、認可保育所に入所申請をしているのに入所が決まらない児童を意味する。なかでも問題は、審査の厳しい認可保育所への入所を最初からあきらめて申請すらしないために統計に表れない「潜在的待機児童」が大量にいることだ。その数は13年時点で約80万人以上と推計され、それだけ多くの母親たちが働きたくても働けずにいる。

こうした現状に対し、安倍政権は女性労働力活用と少子化対策を兼ねた成長戦略として、保育サービスの拡充を掲げ、17年度末までに50万人分の保育の受け皿を整備するという「待機児童解消加速化プラン」を打ち出してきた。