面白いのは、ソフトバンク側の責任者、米谷雅之氏(コマース&サービス部門統括)がキリンとの面談ではいつも「大変な思いをしてやってきました」と言い添えたことだ。本音でぶつかるソフトバンクに対して、井上氏は不安よりむしろ安心感を覚えたという。
「大風呂敷を広げながらも、依頼したさまざまな宿題に対して可能な限りの回答を出してくる。すべて完璧ではありませんが、情熱を感じた。これなら任せられると安心しました」
部下の児嶋梓氏(同社事業統括部でシステムを担当)は「米谷は社内では『スピード、スピード!』が口癖。私たちはジェットコースターと呼んでいます」と笑う。
こうしてキリングループの移転プロジェクトも何とか着地。中野の地で新たな企業活動が始まった。
中野オフィスには仕切りがなく、会議室も少ない。大フロアに机を置き、機能ごとに執務する。ビールの商品開発担当者と、ワインやソフトドリンクの商品開発担当者が席を並べているということだ。グループにはもう「会社の壁」は存在しない。
キリンは創業107年。社風はすぐには変わらない。それでも、組織に横串を通す取り組みは着実に成果を上げている。そのための後押しをしたのが、ソフトバンクとの共同作業だったことは間違いないだろう。