ある時点でブレークスルーできれば世界が広がる

【三宅】しかし、先生、えらいですよ。ひとたびはくじけそうになっても、英語を体得しようとする。しかも、会話の渦中に身を置いてというのがすばらしいです。

【大六野】でもすぐにネタが切れてしまいます。それで「サンフランシスコ・クロニクル」という日刊新聞の人生相談の記事を全部覚えました。それで、いつもの「By the way」の後に、「I read an article」と言って、覚えたとおりしゃべるわけです。そして、周囲の学生たちに「What do you think?」。すると、向こうがしばらく感想を話してくれます。それをわかったふりをして聴いている。何度も肯きながらですね(笑)。

【三宅】いまの学生たちが学ぶべきは、その度胸といいますか、果敢な姿勢ですよ。そうでないと、せっかくアメリカに留学しても、ただむなしく時間が過ぎてしまう。私も仕事柄、海外に行った人によくお会いしますけれども、意外に英語力がついてない人もいます。やっぱりアメリカにいるときの学習姿勢と言いますか、英語に対する態度によって全然違ってきますよね。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【大六野】とにかく失敗を恐れずに、恥をかきながら、そんなことを3カ月ほど続けました。すると不思議ですね、例の青年と一緒に寮の階段を上っていて、10歩、ほんとに10歩昇ったときに、彼の言っていることがはっきりと聞き取れるようになったんです。

【三宅】まさに、ある日突然。

【大六野】はい、いきなりでした。確かに、朝はバークレー校のランゲージラボへ行き、訓練を受け、もちろん授業にも出て、それで昼間と夜は、食堂での会話が英語の勉強でした。それでも、なかなか英語が上達したという実感はありませんでしたから、嬉しかったですよ。そこからはもう一気呵成でしたね。

ですから、私が明治大学の学生たちに言うのは「外国に行くんなら、1カ月じゃなくて、3カ月、半年ぐらいは行ったほうがいいですよ」と。もし、私が経験したようになる直前に帰国してしまったらもったいない。ある時点でブレークスルーできれば、世界がグッと広がるということを知ってほしいと思います。

余談ですが、やはり異性を好きになると上達も早い。いまは懐かしく思い出しますが、留学中のある雨の日にアメリカ人のガールフレンドから電話がかかってきて「きょう、会えないか」と。私は一足しかない靴を洗ったばかりで、替えがないので裸足で飛び出しました。舞い上がっていたのでしょうね。その日は、そのまま街中を歩いていた記憶があるんです。

それとあとは映画です。当時、「ゴッドファーザーパート2」が上映されていました。長い映画ですよね。だから、1日2回ぐらいしか上映しないんです。私は朝からシアターに行って、最終上映まで観ました。これを4回ほど繰り返せば、アル・パチーノやダイアン・キートンたちの会話を完全に覚えます。何かそういう心がワクワクする経験を、学びに取り入れるといいでしょう。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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