日本語力を活用した英語力向上
企業活動のグローバル化に伴い、英語を社内公用語としたり、昇進の目安にTOEICの点数を掲げたりする企業が増えている。その是非は別として、仕事で英語力の必要性を痛感しているビジネスマンは多いだろう。
英語を上達させるには、海外で数年生活するのがベターだが、経済的にも時間的にもその余裕がないのが現実だ。その一方で、海外とのやり取りが増えて英語力が不可欠になりつつある。こうした現実的な課題をブレークスルーしようと、大阪観光大学・国際交流学部准教授の池田和弘氏がユニークで新しい学習方法を提言している。
池田氏は、『TOEIC最強の学習法』、『TOEICの英単語こうすれば速く覚えられる! SUPER REPEAT方式』といったベストセラー、ロングセラーを出した実績を持つほか、予備校での教育経験も豊富だ。京都大学卒業後、大阪大学大学院言語文化研究科(修士課程)を修了。産学連携の拠点「阪大フロンティア研究機構」で、ナノテクノロジーを学ぶ大学院生向けに専門分野の英語を指導した経歴を持つ。
池田氏の教育方法を一言でいうならば、「日本語で覚える英語」だ。特に海外経験もなく、日本語しかできない人が英語を上達させる時に役立つそうだ。言葉は複雑で巨大なネットワークの中に存在しており、池田氏の理論によると、いくら英語を覚えても必要な時に、単語や文章が出て来ないのは、日本語のネットワークを使って検索する訓練ができていないからだという。「日本語で覚える」という意味は、すでに身に付けている言葉を利用して、新しい言葉を学ぼうということだ。池田氏の長年の教育上の経験から、こうした学び方の方が数段効果的で、脱落することも少なくなるという。いわば「学習者に優しい」ということでもある。
たとえば、池田氏が指導する単語学習法はこんな感じだ。「defective(欠陥のある)製品を完全にeliminate(除去)する。戦後、日本のmanufacturer(製造業者)は、こぞってこの方針をadopt(採用)し、高性能なdurable(耐久性のある)な製品を次々と生み出した」。英語にカタカナで読み仮名をうち、こうした文章を繰り返し読むことで単語を覚えていく。英語と日本語との多少のずれや不自然さは無視する。核となる意味さえ分かればそれで十分だからだ。
一見泥臭いように見えるが、こうして語彙が増えてくると、日本語ネットワークの上に、英語ネットワークが徐々にでき、日本語力を活用した英語力向上に結び付くそうだ。筆者も池田氏の教材でこうして単語を覚えていくと、1週間で250語ほど覚えられた。
ここで、当然ながら文法はどうやって覚えていけばいいのかといった疑問も出るだろう。特に、スピーキングやライティングでは文法を知らないと正しい英語を話したり、書けたりしないという考え方が今でも強いからだ。そのために「文法の学習に走るケースも見られるが、大概、その時点で英語学習から脱落してしまう」と池田氏は語る。仮に、文法学習が順調に行っても、実践的な会話では相手の話しに合わせて瞬時の対応が求められ、相手がしゃべった内容と文法をすり合わせながら理解し、さらに、それに対して文法的に「英作文」して反応する余裕はないからだ。