英語を聞く力と話す力には大きな溝

池田氏に効果的な英語学習法についてインタビューした。一問一答は以下の通り。
――英語力を上達するにはどうしたらいいですか。

「間違っても高校の文法書には戻らないでほしい。難しい言い方になりますが、言葉の学習は、脳の情報処理の性質と深い関係があります。脳は、コンピューターと違って単純には規則化できないものでも理解し、処理することができます。言葉の意味が持つような『ゆれ』や『ゆらぎ』も理解できるのです。しかし、逆に数学が苦手な人が多いように、脳はたくさんの規則を覚え、それに従って情報を処理するのは苦手です。ですから、文法(規則の体系)に頼って言葉を身に付けようとすると、とても効率が悪く、挫折する上に使えるようにならないのです」

「ネイティブにとっての実用性と、非ネイティブにとっての実用性は違うということも意識すべきでしょう。米国人は実は文法に鈍感です。なぜなら文法などについて深く考えないでも日常生活で自然と使えるからです。また、言葉にはその国の文化も反映されます。ネイティブに共通の典型的な表現がありますので、それを学ぶことも重要です」

――受信力と発信力を区別して教育するのはなぜですか。

「それが私の英語教育の原点です。受信力と発信力は似て非なるものです。たとえば、ある有名人の感動するような講演を聞いても、それと同じように喋れないのと同じです。日本人が日本語で聞いた講演でも再現できません。特に日本語の中で生活してきた人にとって、英語を聞く力と話す力には大きな溝があると考えるべきです」

――ビジネスマンが自分の専門分野での英語力を向上させようと思えば、どうすればいいですか。

「まずは日本語で最新のバックグラウンド知識を得ることが重要です。日本語で理解できないものは英語では絶対理解できません。英文と訳を照らし合わせながら、この英語は日本語ではどう訳すのか、逆にこの日本語は英語ではこういう表現になるのかと考えなら、常に日本語と照らし合わせて身に付けていくことが肝要かと思います。特に初心者は、日本語の新聞記事とそれを英訳した記事を対比しながら読むと、語彙力が増しますし、使える表現が身に付きます。人間の脳は、意味のあるストーリーの中で新しい事物を覚えるのが得意ですので、日本語の文章の中に英語を入れて覚えていく方法もとても効果的です」

「話す力を向上させようと思えば、文法を完璧に覚えようとする発想を捨ててください。長年、英語教育に携わってきましたが、英語が上達した人の共通項は、文法を手放し、英語そのものを吸収するような学習をした人です。この日本語は英語で一体どう表現するのだろうと気楽に考え、発音や文法が苦手でも積極的に発信する訓練をしていれば英会話力は上達します」