これまでの指導から抜け出せない教員がいる
【三宅義和・イーオン社長】高等学校ですが、学習指導要領に英語の「授業は英語で行うことを基本とする」と明示した狙いは、どこにあったのでしょうか。また、その実践は十分に浸透していますか。もしそうでないとすれば、どこに問題があるのでしょうか。
【向後秀明・文部科学省教科調査官】最初に確認しておきたいのは「授業は英語で」という表現です。必ずしも100%と言っているわけではありません。この趣旨としては、まず教員自身が授業を英語で行うことと、それ以上に大切なこととして、生徒自身が授業においてできるだけ多く英語を使うという2つの意味があります。
その背景には、授業の中で英語に触れたり使ったりする機会を充実させる必要があるという考えがあります。日本は、学校から1歩外へ出れば、多くの場合は日本語だけで暮らせる社会です。ある意味、幸せなことなんでしょうが、それで安住していてはグローバル化に取り残されてしまう。現行の学習指導要領の解説ではかなり踏み込んだ記載をしていまして、訳読、和文英訳、文法説明などが授業の中心とならないように留意することとしています。
そこで現状ですが、文科省の調査によると、原則として高校生全員が履修する「コミュニケーション英語I」という科目の授業で、先生がたが「発話をおおむね英語で行っている」と「発話の半分以上を英語で行っている」を合わせた割合は、平成27年度で49.6%です。この数値をどう評価するかといえば、私としては決して満足できるものではないと思っています。ただ、現在の学習指導要領が始まった平成22年度の数値が14.8%ですから、一定の成果があったとは言えると思います。
【三宅】それはずいぶん上がっていますよね。
【向後】ただ、課題は山積しています。それは、従来型の指導から抜けきれない教員がいるという事実です。そこにはやはり、大学入試が関わっています。「自己流でも、取りあえず有名校の合格に結果を出してきたじゃないか」という自負を持っています。学習指導要領に沿った指導は、大学入試には遠回りだと考える教員がいるんですね。それから、英語教員の英語力が十分とは言えない。英語力そのものです。現在、高校で英検準1級、TOEFL iBTのスコア80点程度以上を持っている教員は57.3%です。国の目標は75%ですから、まったく届いてないということになります。
私が深刻に感じているのは、英語指導者としての教員自身の認識です。聞く、読む、話す、書くという4技能をバランス良く育成することが、本当に子どもたちの未来を切り拓くことにつながると思っていない教員が依然としているのではないか。このことは、 生徒もそう思わなくてはダメだし、英語以外の他の教科の教員、それから管理職、もっと言うと教育委員会、さらには英語教育関係の出版社も同様です。できれば、社会全体が協働して、 英語を通して子どもたちの未来を拓くという意識を真剣に持つべきでしょう。それが今後の英語教育改革のキーだと思います。