ネット投票の実現で無党派層を取り込む
そういえば昨今聞こえてくる「政治とカネ」の話と言えば、政治活動費でキャバクラ接待とか、SMバーに通ったとか、裏金(収入)より“支出”が問題になるケースのほうが多く感じる。
「リクルート事件がきっかけとなって政治資金規正法が改正され、裏金をもらうことができなくなっているんです。パーティ券を売ったり、寄付行為を受けたり、合法的に収入を得るしか方法がなくなった。民主党政権の時代を経験し、意外と質素な生活に政治家が慣れてきた部分もあると思います」
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう語る。結果、企業とベッタリ癒着するレベルにまでたどりつかない政治家が増えてきた時代背景もあるという。
「マイナンバーでつまびらかになって困ることはそんなにないと思います。ただしマイナンバーが中長期的に政治にいかに作用するかという視点は、非常に興味深いテーマです」(角谷氏)
自民党は来年夏の参議院選挙に向けて、11月1日からネット上に特設ページをオープンして候補者の公募をスタートした。自民党選対が書類審査と面接で来年3月までに10人に絞り込み、その10人からネット投票で1位になった人を比例代表候補者として公認。事前登録で認められれば、自民党員以外でも投票できる仕組みだ。
「自民党初の試みですが、その先には総裁選のネット投票、さらにその先に公職選挙法改正を経て、国政選挙のネット投票が現実的になりつつある。そのときに重要な役割を果たすのがマイナンバーです。国政選挙に向けた一つの準備段階が、今回の自民党のネット公募だと私は見ています」(角谷氏)
マイナンバーによる投票を視野に入れていることはすでに明言されている。自民党IT戦略特命委員長でもある平井卓也選対副委員長はエストニアを何度も訪問しているが、エストニアと言えば国民IDカードの普及率が8割を超えるマイナンバー先進国。ネット投票もすでに実施されている。
「自民党が候補者のネット公募を始めた理由は、人材探しの意味と、もう一つの狙いは無党派層の取り込みだと思います。候補者を選定するプロセスをネットで見て自分も参加することによって、自民党員や自民党支持者でなくても、『今度の選挙に行ってみるか』とか『この候補者に入れてみよう』という気持ちが芽生え、投票行動につながるかもしれません。現行法では、マイナンバーによるネット投票は、事実上の記名投票となり、どこの誰に投票したか記録が残るなど、議論すべきことはたくさん残っていますけどね」(角谷氏)