生命科学のターニングポイントは2003年
【田原】医療ではなく生命科学ということですが、生命科学は、そんなに昔からある学問ではありませんね。始まったのはいつごろからですか。
【高橋】生命科学の概念自体は1900年代後半頃の最初からありました。DNAが発見されたのが1953年。その後もしばらくは生命科学というより、遺伝学や生物学に近い分野だったと思います。急に発展し始めたのは、やはり2003年にヒトゲノムが解読されてからだと思います。
【田原】生命科学では、具体的にどういうことをやるのですか。
【高橋】生命科学は、生命の謎を明らかにして、それを活用していく学問です。たとえばゲノムの配列は分かっているのですが、その機能については分かっていないところがまだたくさんあります。それを解明すれば、生命の法則性が分かって、法則性を再現したり、予測したり、変化させていくことが可能になります。
【田原】生命の法則性?
【高橋】たとえば再生医療ってありますよね。肝臓や胃などの組織は、幹細胞から分化してできていくのですが、その法則性が分かれば、健常な組織を再現することができます。また、この遺伝子を持っていると、このがんになりやすいというのも生命の法則性の1つです。それが分かれば、この遺伝子を持つ人は将来がんになりやすいと予測できるし、予防的な行動をすることによって変化させていくこともできる。それが生命科学です。
糖尿病の予防メカニズムを研究
【田原】なるほど。大学院でどんな研究をされたんですか。
【高橋】生活習慣病、とくに糖尿病の予防のメカニズムの研究です。マウスを糖尿病にさせて、その遺伝子を調べていました。
【田原】マウスを糖尿病にすることができるんですか。
【高橋】高脂肪食を与え続けたり、元々の遺伝的に、必ず糖尿病になるモデルマウスを使ったりしていました。
【田原】糖尿病を発症させて、その後は?
【高橋】糖尿病を発症させるときに、そのまま放っておく群と予防策を採る群に分け、発症したマウスとしなかったマウスの遺伝子を調べ、どのような違いがあるか、どのような変化が起きているのかを見ていました。それによって、どの遺伝子に着目すれば予防に役立つのかが分かるわけです。
【田原】具体的にいうと、どういう場合に発症して、どういう場合は発症しないのですか。
【高橋】たとえば食事成分や運動習慣によって体内の遺伝子やタンパク質の発現が変わります。つまり食事や運動でなぜ糖尿病が予防ができるのかを、遺伝子データなど生体データを大規模に取得することで解明していました。