病気が発症する前に、生命科学で予防する
【田原】高橋さんは研究を続けながら、2013年にジーンクエストという会社を立ち上げた。これはどうしてですか。
【高橋】私は糖尿病の研究をしていましたが、大規模なデータを扱って研究をするという手法は、他の疾患に応用できます。何を対象にするにせよ、生命科学の研究で今後重要になるのはゲノムやタンパク質などの、生体の膨大なデータです。生命に関する膨大なデータを扱うことで、新しいことが導きやすくなるのです。ただ、研究の中でマウス相手にやるだけでは、なかなかデータが集まらない。研究のスピードを上げるためには、ヒトのデータがたくさん欲しい。もっと多くの人を巻き込むにはどうすればいいかと考えたとき、出てきた答えが起業でした。
【田原】起業すれば、データが集まるんですか。
【高橋】弊社はいま、一般の方向けに遺伝子解析サービスを提供しています。お客様は自分の遺伝子情報を知ることができるし、私たちは研究に必要なデータを集めることができます。
【田原】なるほど。遺伝子解析サービスをすることで、お客さんからデータを提供してもらうわけですか。これはお客さんに来てもらって検査するのですか。
【高橋】いえ、お客さんに来ていただくのではなくて、ご自宅に解析キットをお送りします。キットの中には唾液を入れる容器があるので、ここに唾液を入れて返送してもらいます。こちらに届いた唾液からDNAを抽出して解析。その方がどういう病気になりやすいかとか、お酒に強いか弱いか、どのような体質なのかといった遺伝子情報の解析結果をお知らせします。
【田原】どういう体質かって、たとえばどんなことが分かるのですか。
【高橋】たとえば私が受けたら、黒髪で、身長が平均より少し高めで、低血圧気味で、お酒はあんまり強くないという傾向が分かります。
【田原】へえ、遺伝子からその人の身長まで分かるんですか。
【高橋】そうですね、ある程度遺伝が関係していると言われています。あとは、将来なりやすい病気に関する情報を提供しています。私の場合は、尿管結石や胃がんなど、いくつかの疾患になるリスクが高かったです。