40歳を過ぎる頃から、自分のカラダのことが本格的に気になり始める人は多い。実際、血圧、血糖、血中脂質のうち、1つくらいは“健診の結果があまり良くない……”といった人も少なくないだろう。しかし、だとしたら3つのリスク要因が連鎖する「トリプルリスク」の怖さをよく理解し、今日から生活改善に努めるべきだ。「トリプルリスクを考える会」のメンバーでもある岡部クリニック院長・岡部正先生に、3つのリスクが連鎖するメカニズムや取るべき対策などを聞いた。
岡部 正(おかべ・ただし)
岡部クリニック 院長

医学博士。亀田総合病院副院長を経て、1996年東京・銀座に岡部クリニックを設立。日本病態栄養学会評議員、日本糖尿病学会認定専門医・指導医、日本肥満学会会員などを務める。診療活動に加え、著書などを通じた生活習慣病リスクの啓発にも取り組んでいる。

根っこが共通している。だから連鎖する──

──今も生活習慣病の患者さんは増え続けています。ずいぶん前から注意が促されてきたはずなのに、どうしてなのでしょうか。

【岡部】1つには、メタボリックシンドローム(メタボ)という言葉が有名になった半面、誤解されていることが理由だと思います。一般の方々への調査(※1)によると、およそ9割がメタボとはどんな状態をいうのか、正しく理解していませんでした。いつの間にか「メタボ=単なる肥満」と認識している向きも、約半数にのぼります。肥満だから「見た目がやせれば解決する」とだけ考えてしまうわけです。

本当は、メタボとは内臓脂肪型肥満が前提です。その簡易な目安が、男性の場合で腹囲(ヘソ周り)85cm以上。さらに「高血圧」「高血糖」「脂質異常症」のうち2つ以上に該当すると、メタボと診断されます。主に生活習慣から来るメタボの何が問題かといえば、脳卒中や狭心症、心筋梗塞など動脈硬化性疾患の危険性が大きく増加することです。

──そうした病気の予防を徹底することが容易でない中、岡部先生は「トリプルリスク」の啓発に取り組んでいらっしゃいます。「トリプルリスク」について教えてください。

【岡部】血圧・血糖・血中脂質のうち、どれか1つが高いと、3つとも高くなってしまう可能性があり、血管の状態を脅かします。つまり動脈硬化が進んでしまう。これが私たちの唱える「トリプルリスク」です。

実際、糖尿病の患者さん(高血糖)に対する検査の結果(※2)では、7割近くが高血圧も合併しています。同じく約4割は、血糖とともに血中脂質(中性脂肪)が高いのです。

医療関係者の間では、「トリプルリスク」の危険性は以前からよく知られていた。

──健康診断の結果には、いっそう気を付けないといけませんね。

【岡部】ええ。ただし、健康診断も万能ではありません。なぜなら前夜から食事を制限し、ベストな状態で検査を行うのが健康診断だからです。この方法だと、隠れているリスクをあぶり出すことまでは難しい。

例えば、食後に血糖や血中脂質が異常に高くなる症状(食後高血糖、食後高脂血症)は、通常の健康診断ではつかめません。早朝だけ血圧が高くなる早朝高血圧もわかりません。これらはどれも、より深刻なリスクへ向かう初期症状といえるのに──。

──「トリプルリスク」が連鎖してしまうのは、なぜでしょうか。

【岡部】3つのリスク要因がつながる前提は、やはり内臓脂肪型肥満です。少し専門的になりますが、内臓脂肪がたまるとアディポネクチン(いわゆる長寿ホルモン)というホルモンの分泌量が減ってしまいます。するとインスリン抵抗性といって、インスリンの働きが悪くなる状態がもたらされます。

さて、ここからです。インスリンが働かないと血糖値が高くなる。そこで働きを補おうと、すい臓からはどんどんインスリンが分泌されるため、腎臓の塩分排出機能が弱まって、血圧が上がったり肝臓で中性脂肪の合成が活発化し、血中脂質も高くなるのです。

つまり、血圧・血糖・血中脂質が高くなる根っこは、インスリン抵抗性で共通しています。だから1つでも悪ければ、3つとも悪くなる可能性が出てくるわけです。

【出典】2018年1月、「トリプルリスクを考える会」によるインターネットリサーチ(全国の30-60代男女1200人)

「血圧・血糖・血中脂質」について、過半数の人が1つ以上気にしているが、3つともケアできている人はわずか10%ほど。意識と行動に大きなギャップがあることがわかる。

内臓脂肪が過多であれば、まずその原因を探ること

──「トリプルリスク」の連鎖は、どんな悪影響をもたらすのでしょうか。

【岡部】当然ながら、1つより2つのリスク要因、2つより3つのリスク要因があれば、動脈硬化の進行はますます助長されます。血圧・血糖・血中脂質とも悪くない人が狭心症や心筋梗塞などを起こす危険性に比べると、3つとも悪い人が起こす危険性は、約36倍も高いという報告もあります。

したがって1つでも悪ければ、他の2つにも用心し、3つともケアしていくこと、すなわちトリプルケアが重要といえます。

【出典】労働省作業関連疾患総合対策研究班jpn Cric j,65:11,2001

高BMI、高血圧、高血糖、高中性脂肪血症のうち、3つ以上のリスクを持っていると、心筋梗塞などのリスクが急激に高まる。

──より若い段階で動脈硬化性疾患に見舞われる傾向も現れてきているようですが。

【岡部】そのとおりですね。「沖縄クライシス」という言葉があります。沖縄県の男性の平均寿命は1985年当時、全国1位だったのに、昨年はなんと37位まで下降。大きな原因が64歳以下の死亡率の上昇にあると考えられています。沖縄県は、終戦直後から食事の欧米化が始まりました。ファーストフード店なども東京より早く上陸している。また鉄道がないクルマ社会で運動不足に陥りがちです。そのためまだ高齢者ではない64歳以下の方々にも生命にかかわる動脈硬化性疾患が増えてきたと推測されるのです。今後、同じ傾向が全国各地へ拡大していくことは十分に予想されるでしょう。

ただ私の経験からは、30代で検査結果に問題があっても、しっかり向き合う方は少ないですね。やはり40代を迎えると、注意しようと考える方々が増えてきます。そして40代こそ、自覚をもって生活改善に取り組むべき時期でしょう。50代以上では、本格治療が必要な状態の方々が多くなってしまうのです。

──リスク要因の連鎖に対するケアのコツを教えてください。

【岡部】適度な運動はもちろん必要ですが、食生活の改善で大切なのは、自分の内臓脂肪を増やした原因を自覚し、的確な対策をとることです。甘いものをそんなに食べていなかったのなら、糖質制限してもあまり効果はないでしょう。「内臓脂肪を減らすには〇〇を摂るのがよい」という類の情報も鵜呑みにはせず、それが自分にも当てはまるかどうか、よく食生活を振り返ってみていただきたいと思います。

また急にジョギングなどを始めて、体重を1カ月で5kgも落とすような方法はかえって危険です。「俺はやればできる」と自信を持っている人が案外多いのですが、40代でも動脈硬化がある程度進んでいれば、走っている間の心臓発作も考えられます。しかも、そんな生活は長く続かず、いわゆるリバウンドが起こる。いったん体重が落ちる時には筋肉も落ちてしまい、リバウンドでは脂肪だけが増えて体重が元に戻るというのもありがちなケースです。

──日々の忙しさの中で、健康管理を後回しにしがちなビジネスパーソンにメッセージをお願いします。

【岡部】先手必勝。これに尽きます。トリプルリスクが表に出てくる前に生活を改善してください。そのためには、親や兄弟姉妹の血圧・血糖・血中脂質や家族に心筋梗塞や脳卒中を患った人がいるか、も意識したほうがいいでしょう。やはり家系が影響している場合もありますから。

基本的に人間のカラダというのは、先手を打ってケアしていけば問題を抑えられるものなのです。特に糖尿病治療には“legacy effect”(遺産効果)というのがあって、初期の対策が先々まで効果を発揮してくれます。トリプルリスクも、早くからの努力によって小さくすることは可能です。

健康管理がしっかりできる方は、ビジネスでも成功している──これは私が多くの患者さんを診ていてはっきり言えること。どうか長期的かつ大局的な視点に立って、ご自身の健康について考え、最適な対策を実践してください。

(※1)2018年1月、「トリプルリスクを考える会」によるインターネットリサーチ(全国の30-60代男女1200人)
(※2)平成14年度厚生労働省糖尿病実態調査