現在世界のマーケティングをリードするのが、アメリカ発の多国籍企業にして世界最大級の一般消費財メーカー、P&Gであることに異論がある人は少ないだろう。
「アジアのスーパーには必ずP&Gの『ジレット ガード』がありますが、実はこのカミソリにはマーケティングの教材にもされる有名な誕生秘話があるんです」
P&Gの社員がインドの村で2週間合宿した折、現地の男性たちが水道がないため、コップ1杯の水で濃いひげを剃るのに苦労するのを見た。そこで、少しの水でさっと流せる1枚刃のカミソリを思いついた。このアイデアは商品化され、半年後にはインドでシェア50%を達成、さらにアジア全域、アフリカへと販売域を拡大させた、というものだ。
人々の生活に入り込み、インサイト(洞察)を得て商品化する――同社の有名な“徹底した現地消費者志向”を象徴するエピソードである。
P&Gの全世界トップは「神戸出身」
でも実は、現在世界を牽引するこの草の根的手法の大本は、日本にあったことをご存じだろうか。
「もともと日本の得意技はニーズを調査してどうのではなく、お客様の家庭に入って話を聞くとか、風呂場を見せてもらうとか、現実の生活の場を素直に感じてそこから何か足りないものを見つけ出していった。その典型が花王です。そして、シンシナティのCEO、つまりP&Gの全世界のトップは、神戸出身なんです」
神戸出身とは、P&Gの東アジアの本拠地が神戸にあることを指す。同社のカリスマCEOアラン・ラフリー氏、さらに09年から13年までのCEOボブ・マクドナルド氏は、2人とも神戸で社長を務めている。
「彼らは花王に学んだのだと思います。市場調査だけして、実際に人の使っている場面を見たことがないような人間が商品をつくっていてはダメだ、どんどん現場に出て体で感じてこいと」
確かに、前述のサムライ・ブランドにしても、そのいずれも現地の生活者の声に真摯に耳を傾けるところから生まれている。では、年間売上高10兆円という超がつく巨人になったP&Gと、本家本元の日本企業を隔てたものとは何だったのだろう。