ヌードルライターが査定
「丸亀製麺は『讃岐うどんの最大公約数』である」

ふわりと湯気が上がる木桶から麺を数本つまみ上げる。それから下のほうをつゆに浸し、ズッズッズーッと勢いよく啜ってちょうど3回。口の中にピシャッと収まった麺は、噛みしめるたびにしなやかなコシが感じられ、小麦の風味が鼻へ抜ける。啜っているうちにいつしかリズムが生まれ、それが味わいをいっそう引き立たせてくれた。この「釜揚げうどん」が全国どこででも1杯290円(並サイズ)で楽しめるのだから、心底、感心させられる。

いわゆる美味しいうどんは全国津々浦々で違う。例えば京都や大阪のうどんにおいては古くから出汁を重要視する向きがあり、一方で、群馬県の水沢うどんになると麺が備えたコシの強弱で良し悪しが判断され、その逆で、三重県の伊勢うどんはふわんとやわらかな麺が命であるから、各県民のうどんにおける嗜好は、なかなか一様には語れない。

讃岐うどんに求められるのは何か。やはり、第一にコシであり、麺の美味しさだろう。イリコや鰹節、昆布、アゴなどでとった出汁もうどんに欠かせない要素ではあるが、それによって讃岐うどんの好みが語られることは珍しい。真っ先に思い浮かぶのは、コシの強弱であり、麺の厚みや幅といった形状であり、それらによって自分好みの一杯が決まるケースがほとんどだ。

「丸亀製麺」の麺は、全国の人が美味しいと感じる“讃岐うどんの最大公約数”のように思う。ぼく自身、何度も本場・香川に足を運び、有名店を中心に食べ歩いてきたが、「丸亀製麺」のうどんは実に“ちょうどいい”食感なのだ。

この絶妙な塩梅こそ、多種多様な好みを持つ人々を惹きつける最大の魅力ではないか。やわらかい麺に慣れた博多っ子のぼくが食べても気持ちよくコシの強さを楽しめるし、コシこそ第一である地域の人々も「丸亀製麺」の麺に満足感を覚えている。双方の欲求を同時に満たすのは、なかなか簡単なことではない。

そんな麺を、さらに美味しく感じさせるのがセルフ方式の店構え。店に入り、すぐに目に飛び込むグラグラと沸き立つ茹で釜、そしてその中で悠々と泳ぐ麺を見た後に食せば、味わいも格別だ。

安さというキーワードもある。釜揚げうどんの並は290円で、本場・讃岐のうどん店にも引けを取らない。さらに「丸亀製麺」の麺は北海道産の小麦粉と塩のみ。手軽に食べられる安心なうどんは、小さな子供連れのファミリーにも嬉しい存在だ。

山田祐一郎
日本で唯一のヌードルライター。 1978年、製麺所の長男として生まれる。著書に福岡発のうどんカルチャーブック『うどんのはなし福岡』。
(的野弘路、奥谷 仁=撮影)
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