年間100店舗ペースで出店する日本一のうどんチェーン。急成長の秘密は、常識破りの経営にあった。「うどん」を武器に、世界の列強入りが見えてきた!

※前編はこちら(http://president.jp/articles/-/17779)

場所が違えば水が違い、水が違えば、麺の味わいも変わってくる。気候への対応も必要だ。たとえば北海道の店舗では、うどん粉が芯まで冷えてしまい、朝に麺をうまく打てないという事態が発生した。そこで、毛布をまいて、隙間に湯たんぽを差し込むことにした。寒冷地にかぎらず、四季を通じての変化にも細かな工夫と配慮が必要になる。

そこで活躍するのが、トリドール人事部次長の藤本智美氏だ。藤本氏は社内で唯一“麺匠”という肩書を持つ人物。各地の店舗を回り、全店で理想のうどんを味わえるように技術指導を行っている。

「マニュアルだけでは80点にしかなりません。うどんは材料がシンプルだから、ささいなことで味が変わる。常に目線合わせをすることが重要で、それは人から人へ、というやり方でしか伝えられません」(藤本氏)

それでも若干は味にブレが出る。「しかし、味を均一にすることが私たちの至上命令ではありません。それよりも、絶対的においしいものを作ることのほうが、私たちにとってはプライオリティが高いんです」(トリドール代表取締役社長 粟田貴也氏)

(左)トリドール代表取締役社長 粟田貴也氏(右)人事部 次長 藤本智美氏

セントラルキッチンを置かないことは、様々な事態に対応する必要が生じるということを意味する。しかし、障害を乗り越え続けたことで、膨大なノウハウが蓄積され、「社員たちの苦労が、もうどこでもやっていけるという自信に結実」(粟田氏)した。

店舗のつくり方に関しても、ロードサイド店のような比較的スペースに余裕のあるものから、「席数を削ってでも製麺機を置く」という覚悟のもと、30坪程度の店舗まで、幅広く対応できるようになった。結果、都市部の狭いテナントへの出店が容易になり、ここ数年の都内進出へ拍車をかけた。

粟田社長の手腕を見ていると、効率的なセントラルキッチンを捨て去ったものの、あらゆる面で非効率に走っているわけではないことがわかる。「製麺所のシーンを再現する」というルールに則っている限り、非常に柔軟な対応を取っている。そして、何を優先すべきかを的確に判断している。

国内の丸亀製麺はすべてが直営店だが、ここにも、粟田社長の考えがある。「アパート経営のような感覚で丸亀製麺をやろうと思ったら、絶対無理なんです。製麺機を入れている以上、手間暇がかかるから、パッケージ化はできません。店舗数を伸ばすか、それとも製麺所の感動を味わってもらうか。優先順位ははっきりしています」