世界一の豪華列車には「人間国宝」の作品を

「ななつ星in九州」では関連する施設に夜空にちなんだ名前が付けられている。乗客がまず最初に集まる博多駅3階のラウンジは一番星にあわせて「金星」。4日目の朝食を取る阿蘇駅ホームのレストランは火の国で「火星」。そのほかダイニングカーは「木星」、ラウンジカーは「ブルームーン」など、夜空というコンセプトで統一されている。
色絵磁器の重要無形文化財保持者(人間国宝)、14代酒井田柿右衛門さんの洗面鉢。2013年6月に亡くなり、これが遺作となった。

【弘兼】客室を拝見して、とりわけ目を引いたのが有田焼の洗面鉢です。14代酒井田柿右衛門さんの遺作だそうですね。すばらしい作品です。

【唐池】プロジェクトが動き出してすぐ、水戸岡さんが柿右衛門さんに会いに行かれました。「ななつ星」が世界一の豪華列車になるには、オリエントエクスプレスを超えなければならない。オリエントエクスプレスの調度品はどれも伝統の裏付けがある。我々が勝つには日本の文化を集めなければならない。水戸岡さんは、そう説明したそうです。柿右衛門さんは、「ななつ星」が九州を世界に発信するための列車だと理解されており、「私がやらなくてはだめでしょう」と仰いました。柿右衛門さんは焼き物は使うものだ、と考えていて、「洗面鉢を作りましょう」と提案してくださったんです。

【弘兼】人間国宝の遺作で手を洗うというのは、本当に贅沢ですね。

【唐池】私はいつもお客さまにこう言います。「みなさま、これは14代柿右衛門さんの作です。柿右衛門さんは人間国宝、そして有田焼400年の歴史の中でも最高峰の方です。その方が魂を込めて、最後に作られた洗面鉢です。間違っても、ここで汚い手を洗ってはいけません」。

【弘兼】そんなことを言われたら、どこで手を洗えばいいんですか(笑)。

【唐池】「どうしても洗いたいときは、手を消毒してから使ってください」と言います。それで爆笑になりますね。二度と作れない豪華な車両です。