車両のデザインより「ネーミング」が先
JR九州は四半世紀にわたって、社外の工業デザイナー・水戸岡鋭治を起用している。革張りのシートにフローリングの「かもめ」や、西陣織のシートなど和のテイストをとり入れた九州新幹線「つばめ」など、斬新な鉄道デザインを手がけた。今回の「ななつ星」も水戸岡の仕事だ。水戸岡は車両のみならず、駅舎、駅ビル、乗務員の制服などのデザインも行っており、JR九州のブランディングに深い影響を与えている。
【唐池】水戸岡さんが最も大切にするのはコンセプトなんです。コンセプトが決まると、すっとデザインが出てくる。逆に言えば、コンセプトが固まるまではデザインに着手しない。
【弘兼】コンセプトとは?
【唐池】私たちの場合はネーミングです。ネーミングが決まれば、水戸岡さんのイメージが広がって、デザインも決まる。そこから物語ができていく。そのコンセプトをつくるのは、私の役なんです。「ゆふいんの森」「指宿(いぶすき)のたまて箱」「あそぼーい!」……。だから水戸岡さんと手がけた9つの観光列車を「デザイン&ストーリー列車」と呼んでいるんです。
【弘兼】「ななつ星in九州」は、どんな思いで名付けたのですか。
【唐池】最初は映画にちなんで「めぐり逢い」という名前を思いつきました。豪華客船で知り合った男女が、半年後に超高層ビルの屋上での再会を約束する、という映画です。
【弘兼】デボラ・カーとケーリー・グラントですね。大好きな映画です。
【唐池】しかし水戸岡さんに電話で相談すると、いい返事をしない。水戸岡さんの反応が悪いと進みません。
【弘兼】車両の名前にはあわない、と。
【唐池】そこで、もう少し考えてみると、九州は7県、客車は7両、そして当初はクルーを7人乗せるつもりでした。7両、7県、7人。7と言えば北斗七星です。
【弘兼】すでに「北斗星」という寝台列車がありますよね。
【唐池】ええ。そこで辞書を引いてみると、北斗七星の和名で「ななつ星」と書いてある。「これはいい」と思って相談すると、反応もよかった。
【弘兼】「in九州」は?
【唐池】これは最初から決めていました。私たちは2010年から中国・上海に事務所を開いています。レストラン事業だけでなく、アジアから人を呼びたい。しかし中国では九州の知名度がとても低いんです。東京や京都は知っていても、九州は知らない。これでは人は呼べません。このため「in九州」を付けました。