「ハリー・ポッター」への巨額投資で予算に余裕がないにもかかわらず、USJはこの4年、入場客を増やし続けた。それは森岡が60以上のイベントや企画を考案し、次々とヒットさせてきたからだ。既存のジェットコースターを後ろ向きに走らせる。パークの片隅で行われていた漫画「ワンピース」のショーを大々的に宣伝する。閑散期だった秋には、夜間のパークに数百体の「ゾンビ」を出没させる――。追加投資のあまりかからないアイデアで、新エリアのオープンまでを乗り切った。
【弘兼】お客さんの気持ちを理解するため、イベントで取り上げる漫画やゲームに何百時間も費やすそうですね。ぼくも漫画賞の審査員をやっていますが、売れている漫画が必ずしも面白いわけではない。読み通すのに苦労する作品もあります。
【森岡】もちろん個人的な好みはあるので、必ずしも楽しんでいるわけではありません。どうしても面白さが理解できない場合には、好きな人間に教えを請います。ただ、ぼくは売れるものには、必ず売れる理由があると考えています。その理由を理解するために努力しています。
【弘兼】売れる理由を分析する。
【森岡】はい。世界中のエンターテインメントでやっていることを分析して、応用できるアイデアがないか、いつも探しています。
【弘兼】そうした分析が当たる企画を思いつくためのコツですか。
【森岡】すべての企画が当たるわけはないですよね。外すことも想定しておかなければダメです。でも、100もなければゼロもない。ぼくは「確率論」を信じているんです。
【弘兼】確率ですか?
【森岡】1から6までのサイコロを、一度だけ振れば、ばらつきがでます。でも1000回振れば、どんな人でも1から6までの出目の回数はほぼ同じに収束するはずです。だからぼくは、成功の確率が高くなるドライバーを見極めたうえで、サイコロを振る回数を増やすようにしています。そこに時間と労力を投資すれば、企画が外れる確率は抑えられます。
【弘兼】だから徹底的に時間をかけて分析するのですね。
【森岡】ヒットの確率を上げるための努力です。ぼくはセンスがないので。
大阪には留まらない、目標は「アジア最大」
【弘兼】森岡さんの今後の目標は。
【森岡】USJをアジアにおけるエンターテインメント業界のリーディングカンパニーにすることです。2013年度の売上高は1000億円足らずでしたから、将来的には3000億円以上を目指さなければいけません。
【弘兼】2013年度、東京ディズニーリゾートの入場客数は3129万人でした。この差をどう埋めますか。
【森岡】関西には関東の3分の1のマーケットしかありません。大阪に留まっているだけでは達成は難しい。いろいろと考えています。
【弘兼】現状には満足しないんですね。
【森岡】ここで満足するなら、最初から「ハリー・ポッター」はやりません。みんな本当に頑張ってくれました。いいチームになりましたが、この先が本当の勝負ですよ。いよいよ作戦開始です。