「今週末にCMを流したい」
06年にボーダフォンの買収が決まると、突然呼び出されて、「今週末にCMを流したい」と言われました。通常は1カ月以上はかかります。「業界の常識としてありえません」と説明しました。しかし孫さんは、「さすが元電通、発想が古いな。固定観念に縛られている。ヤフーなら今すぐにでも出せるぞ」と譲らない。僕が「テレビは考査があるので、最低でも5日ほど前には納品する必要があるんです」と言うと、「わかった。じゃあ来週から流せ」と。
そこで手元にあった空撮映像に「明日の新聞をご覧ください」というタイトルが入るCMを徹夜でつくりました。新聞広告を見てもらうためのCMです。これが意外にも話題になりました。1週間でもできた。孫さんにはやられたな、と思いました。
以後、異例の早さでのCM制作が当たり前になりました。新料金プラン「ホワイトプラン」を始めたときにも、タレントをそろえる時間がなかったため、色からの連想で白い犬を起用しました。この機転から生まれたのが「白戸家」のお父さん犬です。厳しい予算と、時間制約があったから、しかたなく生まれた企画です(笑)。
内藤誼人が分析 心理学的なツボ
【選択的接触】都合のいい情報だけを見て、都合の悪い情報を無視する心理傾向を“選択的接触”という。しかし広告業界に無知だった孫さんは、選択的接触の影響を一切受けることなく、大胆な判断を下せた。
1954年生まれ。77年電通入社。2003年シンガタ設立。ソフトバンク「白戸家」、サントリー「BOSS宇宙人ジョーンズ」、トヨタ「企業ReBORNシリーズ」などの作品がある。