会社を動かすのは誰か。それはあくまでも、現場の社員だろう。では、社員を動かすのは、どんな経営者だろうか。創業者、大株主、カリスマ。そんなものは空疎なレッテルにすぎない。孫正義氏の何が周囲を心酔させるのか。ソフトバンク幹部たちが初めて明かした──。
――ソフトバンク執行役員 青野史寛氏の場合

「いまの世の中を変えるのは誰だ」

ソフトバンクと縁ができたのは、2004年の6月です。当時のソフトバンクには約1700人の社員がいましたが、「Yahoo! BB」の事業を広げるため、3000人の採用を目指すという空前絶後のプロジェクトを進めていました。私はリクルートのコンサルタントとして、外部から採用を手伝いました。

ソフトバンク執行役員 青野史寛氏

プロジェクトは新卒2000人、中途採用1000人でやり遂げたのですが、私はこのままではこのうち半分は1年間で辞めてしまうと思っていました。当時のソフトバンクには大量採用に耐えられるだけの十分な教育体制がなかったからです。

そのリスクを担当者に伝えると、すぐ孫さんに会うことになったんです。スリッパ履きのワイシャツ姿。名刺交換はなく、いきなり「で、何だっけ」というところから始まりました。

私は大量退職のリスクを伝え、そのうえで「新人をフォローアップする仕組みを会社として整えれば、このリスクはリーダーシップをもった人材をつくるチャンスに変わる」と言いました。孫さんは「それはいい」と同意して、大規模な契約を交わしてくれました。ところが最後に突然、「おまえ、それだけやりたいんだったら、そっち側の席じゃなくて、こっち側に来い」と言い始めた。私は「やるべきとは言いましたが、やりたいとは言ってません。移る気はありません」とはっきり断りました。

その後、孫さんの秘書から「孫が呼んでいます」と電話があった。大口の取引先ですから、邪険にはできない。

「地球が逆に回っても移ることはありませんから、それでもいいなら」と伝えて、会うことになりました。開口一番、「おまえは300年後の世界をどう見てる」と聞かれました。絶句です。そして、次のように語り出しました。

「いまの世の中、おかしいと思わないか。それを変えていくのは政治家か、官僚か。それはビジネスという世界から変わるんじゃないか。じゃあ、それができる経営者は誰だ」