──P&Gでのキャリアで特に大きな転機となった出来事は何かありますか。
いくつかありますが、1つは最初の海外赴任です。入社して11年目に初めてカナダに赴任しました。海外での経験は「体感」すると、インパクトがまったく違うんですよ。例えば、カナダでも、次に赴任した韓国でも、日本のような「外堀を埋めて、順序よく」というような概念は一切ありませんでした。とりあえずやってみて、問題があればそのつど修正する。「あの人の話が参考になりそうだ」となれば役職に関係なく、直接アプローチする。スピード感がまったく違いましたね。
──P&Gでは、国を越えて共通の企業理念であるPVP(Purpose Value Principle)が浸透していると聞きます。どのようなコミュニケーションがなされているのでしょうか。
特別な方法ではありません。愚直にトップがミーティングやトレーニングの中で口に出したり、紙に書いて繰り返し伝えていくんです。そうすることで、ミドルの層や現場のチームにも伝わっていくのです。
──「変わらない企業理念」は、ときとして思考が硬直化するリスクにはならないのでしょうか。
定めた理念によって、そのリスクはあるかもしれません。ただ、P&Gで共有するPVPは、極めてシンプルなんです。“すべての個人を尊重する”“革新は、成功の鍵”など、当たり前のことばかりです。ただ、この「当たり前」のことほど、徹底させるのは実に難しい。それを、世界180カ国に商品を提供する11万人の従業員に徹底させていく。国籍、宗教、文化、性別、年齢もバラバラな環境の中で、唯一の拠りどころとなるのがPVPです。
リーダーも、常に完璧な人間ではありません。それでも社員全員の前で、「誠実さ」の重要性を説いた後では、リーダー自ら誠実ではない仕事をできなくなる。部下は常にリーダーの背中を見ていますから。誰よりも襟を正して、PVPを率先しなければならない。そんな環境が企業理念を伝達させ、リーダーをより成長させていくのです。