褒める前提条件は信頼関係の構築
そうしたANAのコミュニケーションを活性化させているのが「褒める文化」である。しかし、いきなりでは褒められたほうも戸惑ってしまう。
「ですから、常日頃から相手を気遣っていることが大切なのです。部下が『上司が絶えず見てくれている』と感じていれば、褒めるだけでなく、叱る場合でも素直に受け止めてくれます。やはり、お互いの信頼関係が前提です」
こう石井さんが語るように、人は認められることでモチベーションも上がる。鈴木さんも、その意味では挨拶が基本で、一緒の飛行機に搭乗するクルーが揃ったときにも「これからよろしく」と上位者から積極的に話しかけるようにしている。
褒める仕組みで効果的に活用しているのが「グッドジョブ・カード」。職場での仲間の仕事ぶりを見て、感心したことがあれば、所定のカードに書いて渡す。カードは、カーボン式の2枚複写になっていて、2枚目が直属長にいく。それによって褒められた人だけではなく、褒めた人も認められる。
「照れくささもともない、褒める文化が根づくまでには時間がかかります。でも、面と向かってはいいづらいこともカードだと書けます。そうするためにも、常に周囲の人に目を向けている必要があるのです」(鈴木さん)
こうした周囲をしっかりと観察するという習慣は、顧客への対応にも発揮される。ANAのCAは、乗客のニーズを引き出すために、よく観察し、想像力を働かせ、尋ねてみるという3つのステップを励行している。
観察眼は、整備部門ではより重要性を増す。機体整備ではネジ1本の紛失が重大事故につながりかねない。しかも、人間が起こすエラーはなかなかゼロにはできない。そこで工場では「指差呼称」が行われる。確認すべきところに人差し指を向け、問題がなければ「ヨシ!」と声を出す。
航空業界には、しばしば荒波が押し寄せる。少し前だと重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行やリーマンショックがあった。これから新たな荒波がきても、独自のES・CS向上の仕組みで、乗り越えていくのだろう。