上司にとって部下の操縦法は常に悩みのタネだ。もし、ご褒美をあげるだけで前向きに取り組み、成果を挙げてくれるならこれほどいい話はない。
実践1:金、地位、表彰……あらゆるご褒美を駆使せよ!
部下をその気にさせ、バリバリ働いてもらうためにはどうすればいいのだろうか。思いつくのが、子供の教育でも取り入れられている「褒めて伸ばす」方法だ。「褒める」とは「ご褒美」を与えることにほかならない。褒めることの印として、お金や地位、表彰など、なにかを与えるのもご褒美となる。
多くの場合、ご褒美をもらえればうれしくなり、嫌な仕事に立ち向かう際の原動力になるはず。とはいえ、このご褒美、ただ闇雲に与えればいいというものではないようだ。
「ご褒美は、部下が自分の能力を知るための一つの手段であり、一種の鏡のようなもの。給料やボーナスアップ、昇進、褒め言葉や表彰など、ビジネスパーソンのモチベーションをアップさせるご褒美はいくらでもあります。これらを総合してパッケージ化することがやる気につながります」と説明するのは、組織論を専門とし、日本表彰研究所の所長も務める、同志社大学教授の太田肇氏だ。
「A・H・マズローの『欲求階層説』(図を参照)によれば、下位の欲求がある程度満たされてはじめて上位の欲求が呼び起こされ、ある程度満たされた下位の欲求は動機づけの力を失うとされています。たとえば最も次元の低い欲求である生理的欲求は、ご褒美でいえば月給やボーナスに相当します。賃金がアップすれば、そのときはうれしいし、もっと頑張ろうという気になるでしょう。しかし、しばらくするとそれが当たり前になって持続しません。また、注意すべきはご褒美の与え方。やり方を間違えると“負のご褒美”となりかねません」(太田氏)
『ハーバードの人生を変える授業』を翻訳し、ポジティブ心理学を応用したセミナー講師としても活躍する成瀬まゆみ氏は、“ご褒美”という言葉自体に否定的だ。
「ご褒美とは、外からなんとか動機付けようとする行為。『人をコントロールしよう』という意図を感じさせます」
たしかに、ノルマの達成度によってご褒美が左右されるとなれば、モチベーションが上がるどころか、部下は、ご褒美で尻をたたかれ、統制されているという印象を強く持つだろう。
これに対し太田氏は、「馬の鼻先に人参をぶら下げるのではなく、何かを達成したからご褒美をあげるという『思わぬご褒美』という形をとれば意味が違ってきます。部下にとっては『自分の能力や成し遂げた仕事が承認された』ことになるので自信になり、人を最もポジティブにしてくれる要素の一つ『自己効力感(自己有用感)』を高めることにつながるのです」と説明する。