この歪みを是正すると、トータルでどれくらいの増収が見込めるのか。前述の特措も含めた筆者の試算では、9兆4065億円という数値がはじき出せた(図3)。増収の想定額は、申告所得金額に平均実効税負担率と法定税率との開差を乗ずることにより試算した。それに企業収益の増加見込みをも加味することが適当なので、過年度の申告所得金額について対前年増加率を基礎に「推定予想課税所得金額」を求め、これに「格差率」を乗じて推定増収想定額を算出した。
現行制度を一朝一夕で変える困難さは承知のうえだ。いまだに戦後の産業経済政策の残影を引きずっている法人税制の歪みを正せば、これだけの増収を期待できるのである。
筆者は89年の消費税導入時、TVや雑誌メディアを通じて徹底して反対した。なぜなら、それは低所得者への過酷な増税である半面、高所得者や大企業には減税となる。それ自体が不公正な税制であり、税体系を悪化させる可能性が高いからだ。
しかも、安易に徴税しやすいタックスマシンだけに、基幹税たる所得税の改善の努力を怠り、国のバックボーンである税制が著しく不公正なものとなるばかりか、財政規律の緩み、ひいては放漫財政の危険に陥ることが想定できたからである。
そして、多くの国民の反対を無視して導入を強行してから27年、消費税は今や日本経済の疫病神となってしまった。
額に汗して一生懸命に働き、真面目に生活する国民の素直な欲求にできうる限り応じるのが政治であろう。それゆえ、この疫病神の“退治”こそが、今の政治の最大の使命だと私は考える。
※文中のPRESIDENT誌4月13日号掲載記事は、「日本の法人税率は世界屈指の高さなのに、大企業の支払額はなぜ少ないのか(http://president.jp/articles/-/16378)」を参照。
1925年生まれ。45年横浜商業高等学校(現横浜国立大学経済学部)卒業、中央大学法学部卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了。国税実査官などを経て65年中央大学商学部教授。欧米留学後、政府税制調査会特別委員等を歴任。著書に『税務会計学原理』『税金を払わない巨大企業』ほか。